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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(前編)-24

「あの子は…さくらは、ただの女なんかじゃない。狗族は、彼女に、太陽の光のような希望を見るのよ。澱みでさえ、あの底抜けの情に救いを求めるもの」

「澱みが人間に救いを求める?逆だろ、人間の命運は僕らに握られているんだ」

人間の女は、害のほうをちょっとだけ振り向いて、くすっと笑った。まるで、何もわかって無い子供の知ったかぶりを笑うように。

「ま、会えばわかるわよ」

彼女はそう言って、彼に背を向けたまま横になった。眠るつもりなのか、単に疲れたのか、女は腹に手を当てたまま、しばらくは蒼い夜の戦場を眺めていた。



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彼らは、打ち捨てられたオフィスビルの32階に居た。大きな窓は、かつては活気に満ちたオフィス街の喧騒を映していたのだろうが、今は、脱け殻のように沈黙する世界を見せつけるだけだ。

「ほら、また報告しないと」

「あぁ」

河野は時計を見た。日付が変わって、今は8月20日午前0時。

眠い目をこすって、トイレに向う。

「どっちの便所に入るんだよ」

野分が言った。

「え…そりゃぁ当然、男子トイレだろ」

げぇ、という野分の表情を見るに、真田はそういうなんでもない言葉を交わす余裕がお互い出てきたということを実感した。小夜は小夜で

「わぁー変なにおい。におい消しの臭いの方がよっぽど臭い、ねぇ、野分」

などとのんきな話をしている。真田と河野は、鏡に映る自分達の酷い姿をなるべく意識しないように勤めつつ、トイレの鏡に呼びかけた。しかし、待っても油良からの返事がない。一瞬何かあったのかと不安に狩られる。

「なぁ、なにかあったわけじゃないよな?」

「ああ、便所かなんかだろ」

野分の答えは簡潔だ。補うように小夜が言った。

「大丈夫です。この戦場は今、狛犬狗族の結界によって包囲されています。狛狗族の結界術は非常に強固ですから、澱みが逃げ出すことは出来ません」

「そういえば、小夜は何狗族なの?」

鏡の前で待つことにさっそく飽きた河野が、洗面台に腰掛けて聞いた。


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