風よ、伝えて!-5
「あまり飛ばさないでね、ヒヤヒヤしたわ。さっき、ダンプカーの大きなタイヤにもう少しで当たるところだったわょ。ホント、生きた心地がしなかったわ。」
身振り手振りで後ろの真理子ちゃんに話しかけ、同意を求めていた。真理子ちゃんは、さ程に感じていないようだったが「えぇ。」と、短く答えていた。確かに、助手席では恐怖心が倍加されるだろう。途中から、事務員さんのおしゃべりが止まっていた。
「ハイハイ、わかりました。どうせ、上り坂ではスピードは出ません。ご安心下さい。」
三人乗りの状態では、スピードを上げたくとも上がらない。ギアはセカンドのままで、
“ウィン、ウィン。”と苦しがりながら、坂を上がった。時々サードに上げるが、すぐに又セカンドに減速しなければならなかった。
少し道が平坦になったところで、ギアをサード・トップへとシフトアップするが、
“カラカラ”と、ジョイントの苦しさを車は訴えた。
“頑張れ、がんばれ!”と、心の中で呟きながら走らせた。
「右を見てみなよ。」と、二人に告げた。真理子ちゃんが
「えぇっ、すごい!高いわぁ。でもきれーい!」と、感嘆の声を上げる。俺は、心の中で”それ以上に君の方が素敵だょ。”と呟いた。と、何かしらマシュマロのような柔らかい物を肩に感じた。
「ホントだー、素敵ネー。来て良かったわぁ。」と、会計さんが俺の肩越しに覗き込んでいた。どうしたものか、と考えあぐねていたが、残念な(?)ことに、事務員さんはすぐに席に戻ってしまった。
“キ、キイィィ!”
急ブレーキに近いブレーキをかけた。事務員さんに気を取られている間に、前の車が眼前に近づいていた。ホッとため息を吐く俺に、容赦ない罵声が浴びせられた。
「こらっ!お嫁に行けなくする気か!それとも、婿養子に来るか?」
「ごめんなさい・・それだけは、ご勘弁を!」
「それだけは、って、どういう意味なの!はいはい、真理子ちゃん一途なのね。」
姉御肌の事務員さん、ありがとうございます。
何の花だろう、いい香りがする。ブレーキにつられて、真理子ちゃんが前のめりになったらしい。彼女のつけている香水の香だろうか。いい匂いだ。
「あぁ、びっくりした。」初めて、真理子ちゃんの声らしい声を聞いた。
「ごめんなさい。もう少しで頂上に着きまーす。」
駐車場は満杯の状態だったが、幸いにも一台の車が目の前で発進した。幸運に感謝しながら、
「日頃の行いがいいからすぐに止められたよーん。」と、軽口を叩いて止めた。
「何を言ってるの、二人の乙女のおかげよ。」と、会計さん。真理子ちゃんも、
「そうそう。」と、少しうち解け始めていた。
プラネタリウムの中では、事務員さんが気を利かせてくれた。真理子ちゃんを中央にして、俺を隣り合わせにしてくれたのだ。気恥ずかしさが少し残ってはいたが意を決して話しかけた。