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風よ、伝えて!
【純愛 恋愛小説】

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風よ、伝えて!-1

目的のXX商店に着いた。エンジンを切り、外気を多分に社内に流し込んだ。そして、配達物を持って、ゆっくりと大股に入って行く。狭い店の中で、皆忙しそうに働いている。
「毎度!」と、大声で怒鳴るように叫んだ。
「あぁ、ご苦労さん。」と、部長が仏頂面で答える。俺は、いつものように二階へ運ぶ。

そしてその二階には、俺に気があるらしい女性がいる。或種の期待に胸をときめかせながら、上った。そして又、「毎度!」。二度も同じ言葉を発して、何をくだらぬことをと思いつつも、いつもそうしている。要するに、「毎度」以外の気の利いた言葉が出てこないのだ。

まだ17歳の若造が三十・四十のおっさんに対して、
「昨夜の戦果は如何でした?ゴルフは如何でしたか?」などという言葉は使えない。主任からは、お世辞の一つ言ってこいと言われてはいるが、どうにも言葉がない。同じ年代相手でも、気心の知れた相手ならいざ知らず、仮にもお得意先である。ため口はやはりまずい。だから、当たり障り無く「毎度!」と言うのである。

いつもなら、
「ご苦労様!」と返ってくるはずが、今日に限って何の返事もない。少なからずこの俺に、ある想像をかきたせた。
“一人きりなんだ、恥ずかしいんだ、だから声が出ないんだ。”

そう思いつつ階段を上がりきった。うん、誰も居ない。いつもは、三ないし四人は居る。返事が返ってこないわけだ。仕方なく、窓から外の景色を眺めた。
忙しそうに、車が行き交いしている。車の保有台数は、全国で三番目だと知ってはいた。
今、確かに納得できる。実に多い。この車の台数を半分に減らそうものなら、確実に事故が増えることだろう。断じて減ることはない。俺は確かにそう思った。その理由に、車が多いからこそ緊張し、車が多いからこそこれ以上のスピードを出せない、そう思った。

「ホント、車が多いわね。半分くらいに減ったら、事故も減るでしょうに。」と、突然あの彼女が俺に囁くように言ってきた。俺は、背筋に水が流れるようにヒヤリとした。
「そ、そうですね。」ドギマギと答えてしまった。昨日までは何も意識していなかった彼女の存在が、今はドギマギさせる。しかも、卑屈に狼狽えてしまった。伝票にサインをもらうと、言葉を交わすでもなくソソクサと店を出た。




何と言うことだ。実に情けない。裏腹のことを答えてしまった。自分に腹が立った。空はカラリと晴れ渡っている。何故か、車に乗ることに嫌悪感を感じた。といって、歩いて帰るわけにもいかない。胸のザワツキを感じつつ、車のエンジンをかける。
気のせいかどうもエンジン音が気になる。ついさっきには感じなかったことだ。そのまま出ようと思ったが、どうにも気になる。ボンネットを開けることにした。ひょっとして、彼女が外に出てきて
「どうしたの?」と、声を・・・。などと、馬鹿な思いが頭をかすめた。

冷却水もオイルも、やはり異常はない。エアークリーナーを見る。異常なし。スターターを回し、二・三度スローバルブを引き上げて空ふかしをしてみる。少し、スローが高いような気もする。しかし、下げるわけにはいかない。
下げれば、ガソリンの消費も少しは減り、エンジン音も幾分かは静かになるだろう。しかし、下げるわけにはいかない。おとなしいエンジンになってしまう。それだけは、許せない。俺のポリシーに反する。

じっと、腕を組んで考える。そして思い出した。ガソリンスタンドのサービス係が、
「タペットが悪いかも?」と言っていたことを。
「そうかなぁ。」と答えはしたもののそのタペットの位置を知らない。いや、タペットそのものを知らないのだ。サービス係に聞けばいいのに、できなかった。同年代の男に聞くのは、嫌だ。我慢ができなかった。

結局のところ、彼女は出てこなかった。彼にからかわれたのかもしれない。それとも、仕事中のことだ、外を見ていないのかもしれない。どちらにしろ、裏切られたような思いを胸に、車を走らせた。


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