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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第27章-1

すっかりぬるくなった、サイドテーブルの烏龍茶に手を伸ばす。
ベッドの軋みに貴方は夢をかき乱されて、小さく声をあげた。
締め切った部屋にこもる、熱気と愛を交わした匂い。
額に浮かぶ汗を拭って、窓をあける。
無防備な貴方の寝顔。



きっとこれが、最後のチャンス。

眠る貴方の髪のにおいを、胸いっぱいに吸い込んで、小さな声で、聞こえないように、そっと告げよう。



さよなら。愛してる。



曙光は淡く、厚い雲の層を突き抜けることは出来ない。光を纏った窓辺の花畑が、風に揺らされるのを待っていた。



世界は沈黙し、問う声も、答える声も無い。耳に痛いほどの静寂は、もう少しで破られることになる。



++++++++++++++



―押しじゃしゅる船ぬ 惜しで惜しまれぃむぃ いもしもしょしら 朝夜拝も



海の表情は変わらない。

自分が海だったら、こんな朝こそ、荒れ狂いたくもなるだろう。海はあくまで穏やかに、それで居て美しい。



抱きしめる腕の中に納まる君の体は震えている。

背後の森に風が起こって、沢山の金色の影が躍り出る。坤軍(こんぐん)の戦士が、東京に向って出発したのだ。

「じゃあ、オレ、行くから!」

涙に濡れた目を伏せて、うなずく君を置いてゆけるのはちょっとした贅沢かもしれない。背中から腕、腕から手のひらへ。二人の手は滑る。最後まで繋がっていた指先が離れて、風が、君の温度をさらってゆく。



―貴方を乗せて押し出す船に、名残を惜しんでも惜しまれません。いってらっしゃい、貴方。朝夜無事を拝みましょう。



++++++++++++++



―テワノ オカイ チロンヌプタラ イテッキ ウェンプリ コリャン…―



湿原を、ゆっくりと、太い風が駆けた。夜明けを待ちわびて沈黙する、青草と水溜りの地を、一人の男がいとおしげに眺めている。

「エエンレラ様、今のは?」

声をかけた白い影に、エエンレラは鷹揚とした笑みを向けた。奇抜な格好に身を包んだこの雪女は、同志を募るや否や一番に協力を申し出てくれた。滅びた村と、そこに今も暮らす沢山の妖怪を束ねる彼女は、白い項に赤いマフラーを巻いている。


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