飃の啼く…第26章-12
抱きしめる腕が力強い。さくらの体からは力という力が抜けきって、ぬいぐるみのような気分になっていた。まだ、体の中に幽かな律動を感じる。その小さな動きにさえ、さくらは一々感じてしまう。
「愛してる」
耳元で囁かれて、また吐息が漏れる。精一杯の力で、さくらは飃を抱きしめ返した。
「愛してるよ」
飃はもう一度ぎゅ、とさくらを抱きしめてから、キスをして体を起こした。
布団がびしょびしょになったことに気付いたのは、それからたっぷり5分経ってからだった。
「それで」
飃が再びシャワーを浴びて、そして今度はちゃんと体を拭いてからさくらに尋ねた。
「何の用があったのだ?」
「…ごはん」
まだシーツの濡れ具合を横たわったまま確かめながら、ちょっと恨めしそうな声で彼女が言った。
「村の人が持たせてくれたごはんを温めたから食べようって言おうとしたのに〜」
飃は悪びれずに笑い、服を着ていないさくらの身体に、さらにいくつかキスをしてくすぐった。
キスによるくすぐりが、本格的なくすぐりの攻撃に変わって、さくらは涙を流しながら笑い続けた。
「や〜め〜てぇ〜っ!!」
体格さや素早さや…とにかく何をとっても飃と取っ組み合いで勝つ見込みは無いから、さくらはなされるがまま、飃の髭に弄ばれて笑わされていた。
その時―携帯の着信音がなる。
「やめっ、やめてっ!ちょっとタンマ…休止!!」
涙ながらの訴え(と拳骨)に、彼はようやく彼女を離した。念のため十分に飃と距離をとってから、携帯を開く。
「あれ?」
「どうした?」
「茜からだ……」