mare-3
「ま、そりゃ壊れるわな…」
「でも、カメラがないとやってけないからクーラーに回す金で新しいのを買ったんじゃんか。俺のせいにすんなよな」
「余った金でパチンコ行って、全部すったのはお前だろ?」
相方は「ヒヒ、サーセン」と笑って、再びパソコンを眺め始めた。
「エコだろ、エコ」
「お前がエコとか言うと、エコロジーが貧乏人の言い訳になるだろ」
「誰がエコロジーって言った?俺のエコは、エコノマイズのエコだ」
へえへえ、と毎度の減らず口に辟易しつつ、
俺は壁にもたれ、びしょ濡れのランニングを脱ぎ、畳の上に放った。
「おい、いまグチャっていったぞ、そのシャツ。ちゃんと洗濯籠に入れて来いよ。さもなくば茸がはえるぞ」
「どんな脅しだよ…」
俺はどっこいしょ、と立ち上がってかごに入れた。畳の上に茸は生えないかもしれないが、たまりに溜まった洗濯ものが詰まったこの籠の底には、多分黴が発生してる。
「インチキばっかりだな」
「あー?」
俺は横着に洗面台から返事をした。
「未確認生物!?とかいって動画をアップしてるくせに、どいつもこいつも偽ものだっつってんの!」
「あー」
それは仕方が無い。動画サイトを巡っても、インターネットで目撃情報を攫っても、本物かも、と少しでも思えるようなものはほぼ皆無だ。
「これかも、ってやつはどれも不鮮明すぎてわからんしなぁ」
大学二年の夏休みも、人の集まらない我がUMAサークルは、部長の相方と俺の二人だけで―つまり、この部屋の中だけでパソコンのモニターとにらめっこして終わる見込みだ。少なくとも、もう海の中の未確認生物は追うまい。
「うわ、おい、ちょっと見て、見て見て見て!」
「んだよ、うっせぇな!マーフィー岡田かよ、おめーは…」
相方はパソコンのスクリーンを指差して、俺を見ていた。
「あった…」
そう。
ことの始まりは、その動画だった。
ニュースで散々取りざたされている、殺人事件、傷害、強盗、自殺…それに加えて最近よく聞く神社仏閣の襲撃事件。それに東京で異常なほど大勢人間が行方不明になっている事件、そういうニュースが連日垂れ流されているせいで、ちょっと不気味な雰囲気が日本中に暗い影を落としている中、妙な動画がネット上で見られるようになった。
“未確認生物”“妖怪”“UMA”…呼称は様々なれど、写っているものはみな似ている。
黒くて、はっきりとした実体を持っているようには見えないスライムのような物。そして、撮影される場所は大抵薄暗い路地や、夜の誰も居ない公園や、道。
携帯のムービーで素人が撮影するから、暗い背景のなかに溶け込んで、そいつらの姿はほとんど判別できない。