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細糸のような愛よりも
【同性愛♂ 官能小説】

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細糸のような愛よりも-4

第二話 切れ長の目に見つめられて俺は

「半年振りくらいじゃないか?」
俺は部室にやってきた綿貫を見て、驚いて言った。
高校二年の夏休み。
部活も終わった、午後のことだった。
部室管理の当番であった俺は、後片付けを済ませて着替えをしているところであった。
俺は相変わらず着崩した制服姿の――おまけに夏休みだからか、ピアスやネックレスもつけている――綿貫に言う。
「しかも、もう終わったぞ」
「それは残念」
俺の言葉に、綿貫は肩を竦めた。
口ではそう言うが、部活には全く興味がないといったふうだ。
「久しぶりに走りたくなったんだけど、来る途中でどうでも良くなってな」
言いながら鞄を放り投げ、ベンチに腰を下ろす。
「でも、何となく来てみたわけだ」
「時間の無駄だな」
俺は着替えながら苦笑した。
すると綿貫は部室の真ん中に置かれたベンチに寝そべり、言う。
「ま、そうでもねえさ」
「?」
「この後、暇だろ? 飯食い行こうぜ」
決めつけたような言い方だ。
しかし、何も予定はないのは確かである。
「何食うんだ?」
俺が制服のベルトを締めて訊くと、綿貫が答える。
「洋食でいいか? 在布(ありふ)にある、小さな喫茶店で知り合いが働いてんだ」
「在布……」
毛利の家の近くだ。
別にやましいことは何もないのに、俺は少し躊躇った。
「どうした?」
「あ、いや」
俺は首を横に振って、鞄を肩にかけ、部室の鍵を握った。
(……俺は、どうして躊躇ったんだろう?)
そうだ、別にやましいことなんて何もない。
腹が減っていた俺は、早く行こうと綿貫を促した。


「綿貫……と、絹川君」
少し驚いたような顔を浮かべて俺達を出迎えたのは、こっちが驚くほどの美人だった。
そして、俺はこの女を知っていた。
「麻木(あさぎ)」
「バイト禁止のうちの学校に、チクられたくないだろ? ランチまけろよ」
冗談なのか本気なのか、笑いながら綿貫は言って、麻木の顔を顰めさせる。
麻木はちらりと俺に視線を向けた。
その視線に、俺は思わずどきりとする。
彼女は俺と同じ二年A組の生徒だった。
今年になって初めて同じクラスになったが、名前を知ったのは一年の時である。
物凄い美人がいるとの噂は、学年中、いや学校中に広まっていた。
すらりと伸びた手足と長い黒髪が印象的な美人は、どこへ行っても注目の的だった。
「もうランチは終わったわよ」
麻木は言いながらも、じっと俺の目を見続けていた。
愛想のない、綿貫に似た切れ長の瞳。
俺はこの瞳から逃れたい衝動に駆られた。
しかし、目が合っている以上、不自然に瞳を逸らすこともできない。
「近くで見るのは初めてだけど、本当に綺麗な顔してるね」
不意に麻木が放った言葉に、俺は思わず鼻白む。
「だろ?」
綿貫が言って、俺を見て笑った。
「なるほど。あの子面食いだから」
「?」
麻木がぼそりとひとりごちるように言い、俺は首を傾げた。
「気にしないで。褒めてるだけだから」
そうは言っても。
美人に容姿を褒められ、素直に喜んで良いのか困惑し、俺は愛想笑いを浮かべる。
そしてそんな俺をよそに、麻木はメニューを綿貫に手渡して奥の席を指差した。
「メニュー決まったら呼んで。停学させられたらかなわないから、割引してあげる」
「ありがとな」
笑いながら綿貫は応じ、俺を席へと促す。
綿貫の様子だと、奴は此処によく来ているようだった。
麻木の、綿貫のあしらい方も慣れたふうだ。
俺がちらりと麻木を見やると、再び彼女と目が合った。
目が合った瞬間、笑みを浮かべた麻木に、俺の胸がどきりと鳴った。


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