Stormcloud-37
「案じているとも!案じているからこそこうして行動を起こしたのではないか!案じているからこそ、皆が世迷言と相手にしなかった寒雲の言葉を聞き、実際にあの水鏡で地上の様子を見たのだ!」
「兄上が…?」
春雲は信じられないというように首を振った。神立は、噛み付くように香雲に言った。
「始めて下界を見た日、私は誰かが自分を呼ぶのを聞いた…このままでは、龍は滅びると、その声は言った。
―永きに渡り天空の龍宮にて、安寧たる暮らしを享受してきた龍の子よ…滅びは近い。
いまや人間どもは、神や自然への感謝、信仰を捨て、豊かであった国を食いつぶそうとしている…このままでは神族は滅びる。
そなたは誰だ?と私が聞くと
吾は破壊者。この世で最も忌まわしい穢れであると共に、神々の再生を導くもの。
暗愚たる狗族は、目先のことのみにとらわれ、吾らを徒に滅ぼそうとする…しかし、それは過ちだ。そなたならば理解できよう…聡い龍の子よ」
香雲は深く息を吸って、其のものの名を口にした。
「それは、黷。澱みの主だと答えた。私はもちろん、そのことを瀛に話したとも。真かどうか確かめるために。するとどうだ、とうの狗族がそれを認めるではないか!挙句私に協力を申し出た!春雲、分かるか?志を同じくするものは沢山居るのだ!このまま大人しく雲の海に沈んでいては、神に未来などない!神は人間を導かねばならぬ!時に厳しくしなくてはいけないこともあるのは当然だろう?」
「澱みは神の将来なんかこれっぽっちも気にしてない!ただ人間を自分達の奴隷にしたいだけだ!」
香雲は、濁った力強い視線で、神立を掴むように見た。
「神族が再び神になれると言うのならば…どうしてその方法にこだわっておられよう?」
「兄上…それは間違いです!」
「黙れ!人形は人形らしく口を閉じていろ!」
香雲は春雲をたたきつけた。
「春雲を…どうする気だ?」
彼は見せ付けるように、首根っこを押さえけた春雲の脚を撫で上げている。春雲はうなり声を上げた。
「この新しい王国の后として、反映の磐石となる子を産ませるのだ…お前が軽々しく名を呼べる存在ではないといったろう」
香雲は、神立の顔を見ながらこれ見よがしに春雲の頬を嘗めた。
「私はな、この子が王族に迎えられた時からこうなることを望んでいたのだ…それを、ほんの数日で薄汚い犬なんぞに心変わりしおって!お前はこの私のための人形なのだ!他のものになど渡すかよ!」
春雲の頬を今度はたいた。
それに激昂した神立は香雲に飛び掛った。その拍子に春雲は香雲の手を離れ、彼女が咳き込む。神立はわき目も振らず、香雲を殴りつけ、香雲も髪を振り乱して神立を殴りつけた。