投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 540 飃(つむじ)の啼く…… 542 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

Stormcloud-38

「人形なんて、呼ぶな!」

「ははは!貴様もついこの間まで澱みの飼い犬だったのだろうが!道具どうし、情でも沸いたか!」

どちらの血か判らぬほど血まみれになった拳を振り上げ、お互いがぐるぐる回りながら、上になったりしたになったりを繰り返していた。

「そういうお前が…澱みの道具にされてるのが、わかんないのか!」

「黙れ!!」

不意に、神立はものすごい力で後ろに引っ張られて、其のまま壁に叩きつけられた。

「く…」

ホワイトアウトした意識が元に戻ると、龍に姿を変えた香雲が雷雲を従えて彼をねめつけていた。たった今神立を壁にたたきつけた尻尾が、鞭のようにしなっている。空気が帯電し、神立の髪の毛が逆立った。

「よせ!雷が春雲に当たる!」

「なら、貴様がさっさと死ねばいいのだ!!」

咆哮の中に言葉をこめることが出来るという点についても、その威風堂々たる姿にしても、寒雲は香雲には遠く及ばなかった。動くたびに、金の混ざった不思議な色の鱗が光、髭の先まで力が満ちていることが解った。

閃光もない。奇襲もきかない。図体も力もさっきの龍とは段違いだ。おまけに、鎌もない。

神立は構えを捨て、正面から向き合った。

「何たる暗愚!」

「背中を見せて逃げるような男が、自分の恋敵で満足なのか?」

龍はくくっと笑った。

「つくづく身の程を知らぬ餓鬼よ!」

―勝負は一瞬で決まる。

自分のスピードが、ましてや鎌もないのに、雷を追い越すことが出来るとは思っていない。しかし、一度飛び出せば、雷に当たっても髭までは届くはずだ。そうしたら、巧くいけば相打ち。運悪く髭を切った後こいつが目を覚ましたら、あとはなる様になるしかない。髭への狙いを外すという選択肢は無かった。許されていないし、その可能性は、無い。

にらみ合いが続いた。大皿よりも大きな目が、ヘッドライトのようにぎらつきながら神立を見つめている。絶対の自信があるのだろう、時折細めたりカッと見開いたりして挑発してくる。

何かが奴の気をそらしてくれるのを、待つ気は無かった。繰り出すタイミングは、自然が教えてくれる。

ひとつ―風が吹いた。

ふたつ―月が現れた。

みっつ―神立は目を閉じた。



「神立!!」

春雲が、抜き身の鎖鎌をこちらに投げた―

神立は、飛び出した空中で鎌を掴み、それを放った。

嵐を告げる雷光が、音を置き去りにするように迅く。


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 540 飃(つむじ)の啼く…… 542 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前