Stormcloud-32
「言っただろ…君は生き延びなきゃ行けないんだ!龍を救うんだろう!」
この騒ぎに気付いた衛兵が、ようやく雪崩を打って入ってきた。王と妃の亡骸と、泣き喚く香雲と、春雲、それから神立を見る。
「お前は…!」
彼らは一同に弓を構えて、春雲が開けた大穴の淵に手をかけた神立を狙った。きりきりと言う音が止まり、張り詰めた弓が矢を放とうというとき、春雲が声を上げた。
「止めよ!この春雲の名において、あの者を殺してはならぬ!」
それは威厳に満ちた声で、彼女の普段の姿を知っているものには信じられない豹変だった。衛兵は彼女の声に反射的にこたえて、つがえた矢を外した。
春雲は彼に駆け寄ると、言った。
「生き延びよ!よいな!」
声はかすれていた。
「命令?」
春雲は、初めて神立の笑顔が憎らしいと思った。
「命令じゃ!」
泣き出しそうな春雲の頬に手を添え、神立は引き寄せて優しく口付けた。
「わかった」
そして、闇を切り裂くスピードで疾駆して消えた。
春雲は涙を拭い、衛兵に振り返った。
「お前たち、まだ龍としての誇りを失っていないのであらば、わらわに続け!このおろかな騒乱から龍を救い出す手伝いをせよ!」
春雲は衛兵を町に向わせた。
「春雲、待て!」
そして自分は龍宮の中に留まっているものたちにこのことを知らせようと、兄が止めるのも聞かずに一目散に駆け出していった。
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「なぜお前の口に雷が宿ったか知っているか、颱よ?」
丸腰の颱に不気味な青龍刀を突きつけているのは寒雲だった。颱は寒雲を睨みつけていたが、形成が不利なのは誰の目にも明らかだった。周りを取り囲む衛兵が、見かねて口を出す。
「寒雲様、王はこのことをご存知なのですか…?」
「黙れ。いまや王など傀儡に過ぎぬわ!今宵からは新たな王が君臨するのだ!」
寒雲は衛兵をしかりつけ、颱に向き直った。
「颱、それはな、家畜にも劣る雷獣と交わるような狗族の餓鬼の言葉など、語られる価値を持たんからだ!」
禁帯に手を伸ばす颱を、寒雲は更に嘲った。
「雷比べか?面白い…放ってみよ!」
憤る颱は、何のためらいも無く禁帯を解いた。眩い雷光の中で、寒雲は瞬時に龍に姿を変えた。