Stormcloud-31
「起きろーっ!澱みが裏切ったぞーっ
!!」
考える前に、声の限りに叫んでいた。家々の明かりがぱっと点り、人々がばらばらと外に出てきた。神立は、春雲の背中の上で叫び続けた。
龍宮を目指して、春雲は飛んだ。彼女を待ち受ける龍を一頭、二頭と交わし…ものすごい勢いで、このまま行くと…
「ち、春雲、ぶつかる!」
判っているのかいないのか、コントロールが効かないのか、彼女は顔面から堂々と、龍宮の最上階に突っ込んだ。
神立は投げ出され、もうもうと立つ煙の中で激しく咳き込んだ。もう一つの咳き込みは春雲だろう。今の衝撃で変化が解けたのだ。
「大丈夫、春雲…?」
彼女は咳き込みながらも、窓にかかっていたカーテンを引きちぎり、身体に巻いた。神立は、危うく自分が彼女の裸を見るところだったことに気付いて、不謹慎にも赤くなった。
「神立は?」
「平気。ここは一体…」
煙はいまだ収まらなかったが、声ははっきりと聞こえた。
「阿春か?」
この声が、王の声でも、妃の声でもないことはわかった。
「香雲哥さん…あぁ!」
煙は、引き下がるように収まった。兄の腕には、弑された王と王妃が横たわっていた。
「阿春…寒雲が…寒雲が裏切った…」
「哥さん…」
香雲はなすすべもなく、血を流す遺体を掻き抱いて泣いていた。
そこは、目を見張るほど豪華な、装飾に埋め尽くされた部屋だった。屋根という屋根、壁という壁、柱という柱全てに、繊細で華美な装飾が施され、奥に見える真っ赤な階段を上った先の、金色の幅の広い椅子が王座だろう。何匹もの龍が絡まって、手すりと背もたれを支えている。あの椅子は座り心地が悪いだろうな、と神立は思った。
「澱みは?」
神立は、傍らに膝を突いて、なるべくショックを与えないように簡潔に聞いた。
「寒雲が…伴って町へ…あぁ、春雲…あいつを信用した私が愚かだった…」
神立は頷いていった。
「春雲、君は早くここから逃げて」
「神立は…どうするのじゃ?」
「僕は残って戦う」
そう言って神立は、壁にあいた穴から再び外に向おうとした。
「だめじゃ、わらわも戦う!」
春雲はしがみ付いてでも彼を生かせまいとしたが、神立が声を張り上げた。