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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-30

「おいおい、おれらの相手をしてくれるってのかよ!」

「おい、その子には手を出すな!」

力の限り押し上げてもびくともしない。牢の中で暴れる神立に、春雲は驚くほど冷静な声で言った。

「無駄じゃ。その牢は、変化をとかぬ龍を閉じ込めるための場所…中からは開けられぬ」

「春雲…頼むから、逃げろ!」

彼女は動かぬまま、じっと澱みをにらみつけていた。眼光で澱みが殺せるなら、苦労はしない…澱みは笑いながら彼女の身体を見回した。

「確かにべっぴんだ。腕を引きちぎる時にはさぞかしいい声でなくだろうぜ」

「黙れ!下種共、そり上近づくと容赦せぬ!」

場の空気が帯電したように髪の毛が逆立った。一瞬澱みはひるんだが、

「生意気抜かしやがる!」

と笑い飛ばした。

「去れ!我らが神聖なる龍の都から。哥の語ったことは誤りであった…この私が、哥に変わってそなたらの退去を命ずる!」

「ほお!するってーとおめえが王の一人娘か!いっぱしの口を利きやがる…王座で死に掛けてる親父よかよっぽど立派じゃあねえか!」

澱みが口々に笑い、その中の一人が手を伸ばして彼女に触れた。

「お前―」

神立が声を荒げるのを、何かがとめた。

澱みの手はアメーバのように広がり、彼女の身体の表面を包むように広がった。

「触れたな」

彼女は凄みのある声で言った。恐ろい声だった。

「我が逆鱗に、触れたな!!」

もの凄い爆風が、彼女を中心に起こった。それから閃光が。神立が目を閉じる前に、彼女の髪の毛が逆立ち、光り輝く身体には澱みの一部も、服すらも纏っていないのが見えた。

「春雲!」

恐ろしい咆哮がした。しかし、紛れもなく春雲の声だとわかる。突然の光に焼かれた目が回復するにつれ、ものが見えるようになって来た。澱みは今の閃光にあらかた焼かれてしまったようだ。慌てふためいて逃げ出す後姿を、かろうじて一匹分、捉えることが出来た。

「うわ…あ」

光漲る鱗は、春の雲のような曇りない白。薄い金色の鬣が、柔らかな風を受けて揺れていた。格子に近づけた顔を、そっと撫でる。春の風に触れたときのような心地よい手触りだった。瞳には、優しさと希望が溢れ、きらきらと輝いて神立を見ていた。

「春雲、すごく綺麗だ…」

彼女はびっくりしたように一度顔を引き、そむけた。尻尾が格子に巻きつき、いとも簡単にそれを引き抜いた。彼女は神立を肩に乗せ高く、高く飛翔した。

町はまだ眠っている。おびただしい数の澱みだけが、道という道を埋め尽くさんばかりにひしめいていた。


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