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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-3

「僕は…数ヶ月前まで澱みに育てられていたんです。匂いがついていても仕方が無いかもしれません」

「なんと!」

門番は明らかに顔をしかめた。おまけに、鼻に皺がよっているのを隠す気も無い。要するに、自分は適任ではなかったのだ…。神立はため息をついて言った。

「仕方ないです…颱さん、僕はここで待ってますから、どうぞ行ってきてください」

気遣わしげな目が神立と門番を行き来していたが、迷うことに使える時間はあまり無い。彼は頷いて、門番にも視線を送った。

門が開くと、そこに描かれた龍が、観念してしぶしぶ彼らから目をそらしたように見えた。門は外側に開いたが、その内側からは一人ずつが扉を押し開け、紋の重厚さを改めて思い知らされた。

颱がもう一度、振り返って神立を見ようとしたとき、

「いいじゃない、入れてあげれば」

頭上から鈴のような声がした。

門番は驚いて素っ頓狂な声を上げた。門番だと思っていた人影は、兵士の外套を脱ぎ捨てていた。なるほど、改めてみれば兵士より背が小さいし、なんと言ってもまだ子供だ。

「おはよう、颱!今日は瀛(イン)は来てないのね…香雲哥さんががっかりするだろうなぁ」

綺麗に着飾った服装と兵士のあわてようを見れば、あの子供がどれだけの身分のものかわかる。

「阿、阿春(アチュン)様…!」

少女は、楼門の高みからふわりと飛び降りて、薄く軽そうな着物が羽衣みたいに踊った。

「春雲(チュンユン)って呼べって言ってるでしょ!」

そう言って少女は門衛の向う脛を蹴り飛ばした。

「澱みの匂いがするくらいで追い返すなんて、あんたにそんな権限あった?」

門衛は言いよどんだ。

「しかし…私はあの者達をどうしても信用することが出来ません」

春雲は、表情の曇った門衛の心配を軽く笑い飛ばした。

「だって、香雲兄さんが言ってたじゃない。澱みは決して悪い存在というばかりじゃないって!それが信用できないの?」

門衛はまたしても答えに窮した。その様子を見て少女は、今度はあっけに取られてみている神立をくるりと振りかえり、つかつかと歩み寄って彼の顔を覗き込んだ。

「醜い瑕(きず)ね!名前は何?」

名前を聞かれるより先に貶(けな)されたことに多少むっとしつつ、神立は答えた。

「か…神立」

「字は?書いて」

そう言って、かんざしを抜いて神立の手に手渡し、壁を指した。真っ白な漆喰に引っかいて字を書けと促しているのである。

「出来ないよ」

「出来るわよ!」

少女はかんざしをもう一本抜き取り、これでもかとばかりに大きな字で“春雲”と書いた。神立は、きっと恐ろしい眼差しで彼を睨んでいるであろう門衛と目を合わせないようにしながら、控えめな字で“神立”と書いた。


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