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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-2

颱は兄、颶の黒髪とは対照的な白銀の頭髪を、これまた対照的に短く刈っており、まるで手入れを怠った芝生のような髪形をしていた。口元を赤い包帯のようなもので覆っているのは、口を開けるとそこから雷が飛び出してしまうからだと神立は聞いた。兄は目に、弟は口に、それぞれ雷を授かってしまったと言うことだ。獣の姿で居る時には雷を制御することが出来るのだが、それだと不便だと言うので、いつも人の姿をし、赤い包帯を巻き付けて生活している。

一見すれば対照的な兄弟だが、性格の穏やかなところは二人とも似ていた。兄弟は雷獣と狗族の合いの子である。それゆえ、龍と話をする時には必ず二人の内のどちらかが道案内を勤めるか、彼らが直接赴いて話をした。

雷獣は雷をつかさどる獣で、厳密には神族ではない。言葉は解するが、龍族に飼われている家畜のような位置づけである。もっとも、その事を彼ら兄弟の前で口にするものは―少なくとも狗族には―居なかった。

雷獣は雲の上から地上や雨雲の中に雷を届ける配達係である。全ての雷が雷獣によるものであるというわけではないが、龍たちが遊びに興じる時、また、人間を罰したり天啓を授けたりする時には、彼らの練った雷を、雷獣が丁寧に定められた場所へもっていくのだ。だから、雷獣の血を引く彼ら兄弟には、本能的に龍の巣へ行く道と、帰る道が判る。彼らの案内なくして龍の巣に向かったものがどうなるかは…龍のみぞ知ると言ったところだ。



龍の巣の入り口までたどり着くことが出来たら、初めてそこに来たものはかならず言葉を失うことだろう。この世には龍宮が二つある。片方の龍宮は海の奥底にて海神(ワダツミ)が、もう片方は雲の上で雷と雨を司る龍神が治めている。海の龍宮が民謡にあるとおり、絵にもかけない美しさなのかどうかは神立には知る由も無いが、目の前の雲の龍宮は絵に描くどころか、詳細を記憶にとどめておくことすら難しいほどの壮麗な建物だった。門は、二階部分のある楼門になっている。そこから、おそらく門番の一人だろうと思われる小さな人影が、ベランダのような二階部分に座って見下ろしていた。鮮やかな原色の彩色が施された梁は色鮮やかな雲を思わせた。重厚な門扉には、睨みを効かせる番の龍が描かれていて、たった今到着した二人の客を、まさに検分しているかのようだ。



「お帰りください」

門前で、見事な甲冑に身を包んだ門番にそう言われたとき、神立は文字通りへろへろになっていた。

「えっ?」

初めて会った目上の者に言われた言葉を咀嚼(そしゃく)する力すらなかった。まあ、咀嚼するほど難解な言葉ではない。ただ帰れといわれただけだ。しかし神立は、はるばるここまで2日歩きとおしてやって来たのだ。それもこの一大事に、重要な使命を帯びてやってきたのに、一言どう見ても下っ端の門番に帰れといわれてしまったら、聞き返さずにはおれない。傍らの颱も、眉をしかめて怪訝そうな表情を浮かべている。説明を求められていることを察したのか

「澱みの匂いがします。得にあなた」と、神立を指して門番が言った。

「あ…僕は…」

澱みに育てられたので、と言ってしまっていいものか、神立は迷った。それじゃあますます、澱みのスパイか何かに疑われちゃうんじゃないか?それにしても、颱さんのほうは何度もここに来ているというのに、その人の連れと言うことで融通が利かないものか…龍と言う生き物は、強いくせにとかく用心深いのだと神立は思った。言いよどんだままでは疑いは晴れるどころかいっそう色濃くなってしまう。神立は、話すことの出来ない颱に助けを求めず、観念して本当のことを話した。


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