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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-26

「…違うの?」
「魂は、澱みのエネルギーになりうる…しかも、魂一つで澱みは40体の分身を作れるし、分身を作らないならば50年は養分無しで生きていける。」
「飴玉みたいに、身体の中で少しずつ溶かしていくんです。」
神立が風炎の後をついだ。その光景を想像したのか、さくらさんと茜さんが身震いをした。
「だけど、今みたいに救うことが出来れば元に戻るんだよな?少なくとも早い段階ならさ?」
カジマヤもさすがに神妙な顔だ。風炎が眉をひそめたままうなずいた。
「これ迄に澱みが魂に手を出すことはまず無かった…黷が直接飼っている大物ならともかく、あんな雑魚までが…」
人間から魂を抜いて澱みの糧にする試みは、風炎が澱みに身を置いていたときにはまだ実験段階にあった。探屋として実験台になる人間を届けていたのは、ほかならぬ風炎なのだから、知らないわけは無い。そう。だから、成功例が1件挙がっていたことも知っていたし、すでに青嵐会に報告もしていた。しかし、能力に個体差がある澱みの全てが、同じやり方でこんなに簡単に魂を抜き出せる方法を見つけていたとは。

ぬるみ始めたはずの夜の空気が、不意に冷たく感じられた。不気味に暗い、幾つもの路地に目を据え、その中で蠢く何かを探すように皆黙り込んでいた。その後、飃さんは颪に現状を報告しに行った。

さくらはまだ街を回りたいと言い張ったものの、結局説得に応じて、大人しく帰ることにした。帰り道には、飃に命じられたお供が二人。

「あーあ!あんな事があった後で大人しく帰ったってさぁ…」

「でもさ、俺たちが今駆け回って一匹や二匹退治したところで変わんねえんじゃねえの?」

カジマヤの“今を生きる”主義に基づく言葉は、時に意外に思えるほど現実的に聞こえる。さくらは、力んでいるせいできゅっとすぼんでいた肩をふとおろした。

「そうかもね…。」



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神立は、不思議に思ったものだ。八条さくらという人間の、原動力というものが何なのか。戦う理由を求められるのを、彼女が好きじゃないのは知っている。でも、神立にとっては、彼女は全く不思議な存在だ。彼女は生まれながらに正義と平和を愛する戦士だ。澱みが消える瞬間の彼女の目を見ればわかる…彼女は心のどこかで、澱みでさえも哀れんでいる。その心に澱みへの純粋な怒りが渦巻いているのが判る。しかし、怒りであって、憎悪ではないのだ。神立にはそれが理解できなかった。

憎悪を原動力にしない戦い方があるのか。恐れを、自己憐憫を糧にしない強さがあるのか。

そういう人間の、原動力がなんなのか、神立は知りたいと思った。



異様な気配に、神立は顔を上げた。意識を外に向け、五感のアンテナを牢屋の外に伸ばす。遠くの咆哮、遠ざかる二組の足音。そしてこちらに近づいてくる足音。

「神立!」

綺麗に結ってあった髪は解け、頬から血が流れている。そして、目は炯炯と輝いていた。

「そなたをここから出す。力を貸せ!」


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