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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-21

「お気に入りのお人形がなくなってご立腹?」

春雲は言葉を失った。その通りだったからなのか、怒りのあまり二の句が継げなかったのか…どっちだっていい、と神立は思った。

彼は、あの踊っている最中に目にした、自分と同じ目をしたかわいそうな少女のことを考えないようにした。今は、狗族を裏切り、公然と澱みの見方をすると宣言した龍族そのものに対する怒りのほうが大きかったのだ。身内ものの血を引いているからといって颱がこの不名誉な待遇を免れることは出来なかった。無論、謁見を許される立場の彼は地下牢には居ない。特に危害も加えられることなく、地上に帰るときまで軟禁される。いつ開放されるのかわからないと言う以外は、懸念するようなことは今のところ無かった。神立は、床についた鉄格子の向こう側の、さらに地下へ続く階段に腰掛けていた。春雲には背を向けたまま断固として彼女の顔を見ようとしなかった。

「出て行けよ。お姫様には似合わない…出て行って、澱みと仲良く暮らせばいいだろ」

その声色に、春雲は思わず、格子を握っていた手を離して、立ち上がった。暗闇の中で座っている彼の背中は、神立のもののはずなのにどこか違った。背を向けたら、逃げるあてを考えるまでも無く殺されてしまうような、静かで凶暴で、狂おしいほどの冷たさを内包した雰囲気があった。

「そうだ…そんなに地上のことが知りたいなら澱みに聞けよ。きっとなんだって教えてくれるさ」



神立の気は今にも狂いそうだった。鎌を取り上げられたことも大きな痛手だ。あれが手元にあるだけで、安心感がある。脱走の手助けになるからというわけではない…ただ、物言わぬ器物だったとしても、長い間共に戦線を潜り抜けてきたあの鎌は戦友なのだ。

そしてこの冥い部屋。この牢は、不思議と細くて長い。横幅は2メートルにも満たないのに、奥行きだけは、入り口からも望めない。どこまで続いているのか、彼には調べる気力も無かった。春雲も去ってしまうと、あたりは全くの静寂に包まれた。暗闇が覆い隠す長い牢屋の先をじっと見つめていると、ありもしない足音やうめき声が聞こえるような気がする。神立は今にも…狂っていた頃の自分に戻ってしまいそうだった。



曙も、宵も判らぬ暗闇にあって、神立はかろうじて3日が過ぎ去ったことを知った。一日一回の食事が3度あったから、今は4日目、ということになるのだろう。澱みが到着し、町中にはびこるようになったのは、おそらく2日目以前からだ。それ以来気味の悪い悪寒が絶え間なく彼を襲った。牢屋の番人が、最近体調が悪いとぼやくのが聞こえる。当然だ。澱みは神族の生気を糧に強くなるのだから。龍族の無知と、何より澱みに腹が立った。悪寒に一々震えて、粟立つ肌に爪を立てて、彼は不安定な眠りに落ちた。



―敵意を持った舌が、呼吸もままならないほど深く口内に入り込んでくる。

「んぅ…っ」

何故だろう。とても愛情など感じないのに、胸の小さな突起を弄ぶその指使いを愛撫と呼ぶらしい。そして、唐突に突きたてられる鋭い爪。涙がこぼれるほど痛い…そして、痛いほどに体は慄(おのの)く…快感で。


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