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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-11

「ねえ、喉が―」

乾いたんだけど、と言おうとして水鏡に映ったものを見て、神立は舌をかんだ。春雲が目を留めた何かが、だんだん大写しになっていく。

「ほう!こんなのは初めて見た!何をしているのだ、この者たちは?」

「えぇ…と、その…」

「ああ、あれは性行為だよ!」と言えるわけは無い。場所は公園。木の幹に女が寄りかかり、男は足を持ち上げて、その行為に及んでいる。まったく、よりによって、“こんな時にそんな所でそんな事をしなくても”と神立は思い、頭の中のどこかから、おせっかいにも“こんな季節の、こんな場所だから、そんな事をしたくなっちゃったんだよな”と聞こえてきた。ともかく、水鏡が音声を拾わなかったのは不幸中の幸いであった。春雲は期待をこめて神立の茹蛸より赤い顔を見ている。

「その…あの、行為だよ」

我ながら最悪な答えだなと思った。

「何かを行っていることくらいわかる…馬鹿にしておるのか?」

「と、とんでもない!」

少女は訝しげに、神立が必死に頭をひねるのを見た。そして、神立が何かをひらめくのを。

「キスだよ、あれは、うん」

「きす?字は?」

目の横でだんだんと激しさを増す動きをどうにか無視しようと、真っ直ぐに春雲を見た。

「字は…英語だからわかんない。けど、日本語なら…接吻、かな」

「それなら知っておる!でも、見たのは初めてじゃ」

そして、何故か目をそらしている神立が居た堪れなくなってしまうほど水鏡をまじまじと見た。

「…あんなに激しく動くものだったとはの…」

「い、いや、あれはその…ちょっと普通じゃないやり方なんだよ。見たのは初めてなんでしょ?普通はあんなふうにはしないんだ」

今後、春雲の“接吻”に関する定義が他の人と食い違ってしまうことと、それが引き起こすと予想される数多のトラブルに思い至って、神立はあわてて言い添えた。

「なら、普通はどうする?」

「は?」

「やってみせよ」

心臓に足が生えて、肋骨の中でリバーダンスを踊り始めたみたいな感じがした。

「いや、一人でするものじゃないし…」

「わらわがおるではないか。ためしにやってみたい」

水鏡の中の恋人たちはまだまだ“行為”を続けているので、神立は視線を下に落とすことも出来ずに、自然と春雲と目を合わせることになった。

「…だめだよ」

「なぜ?」

春雲は彼のほうに身を乗り出し、そのせいで、甘く優しい彼女の匂いが、触れられるほどに感じられた。心臓には相変わらず足が生えていたが、今度は脳みそにプロペラがついて回転しだした。


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