飃の啼く…第24章-8
「言ってくれ、八条さくら」
私は生唾を飲み込んだ。もたもたして、龍族のところへ行くのを遅らせてはならない。
「青嵐会は、この殿の北の奥に、な、なにかを隠し―いえ、匿っておいでとか…そのものが私と話をしたがっていると聞きました。是非面会をお許しください!」
指先がジンジンする。機密漏えいの罪で捕まったりしないといいのだけれど…みんなぽかんとして、私を見ている。
「そうか」
青嵐は小さな声で言った。
「遅かれ早かれ、そういう時は来ると思っていた。いいだろう、許す!但し八条さくら一人で行くこと。他のものの一切の立ち入りを禁ず。道順は覚に教えてもらったか?」
うなずいた。
「では行ってよし。以上、解散。瀛、虎落、来い!」
颪さんらしい、簡潔な閉会だった。しかし、なんだろう、なにか…投げやりな感じが、私にはした。
―彼が諦めたのは何だろう。
立ち上がった狗族たちの身体と体の隙間からのぞいた彼の座には、もう誰も居なかった。
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青嵐は、円の部屋の隣にある、小さな待合室で、ちょうど彼と向かい合って傅く狗族を見下ろした。
「さて、瀛よ。先ほどの情報は誰から聞いた?」
「は、龍族の使いのものに」
青嵐は悠然と臣下を見下ろした。
「顔を上げろ、瀛。何か言う時には俺の目を見て話せ」
何かただならぬものが、傍らに居た虎落を不安にさせた。なんだろう、青嵐はこの一大事に何をのんきに構えているのだ?瀛は面を上げ、眠たげな表情で青嵐を見た。
「それで、その使いはどこだ?」
「急ぎ帰りました。何しろ一大事ですので、一刻も早く巣に戻らねばなりますまい」
「おれに顔を見せずにか?」
瀛は颪の放蕩の影で青嵐会を支えてきた忠臣の一人である。その功績を知っているだけに、この対応には不信を抱かざるを得ない。
「風巻」
不意に、青嵐が呼ぶと、彼の後ろに寡黙な狼狗族の姿が現れた。青嵐を見据える瀛の目が床に落ちる。風巻は青嵐の手に、血に染まった布切れを落とした。
「“帰った”は間違いだな、瀛」
その布切れに縫い付けられた紋章を掲げると、老狗族は驚きに声を上げた。