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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第24章-5

「左に詰めてよ御祭…さ、ここへおいでよ、さくら!」

ブツブツ言いながら、四国の御祭が腰を上げた。きっかり一人分、私のために席が空いた。私は飃の近くに居られない不安を隠し、頭をたれて腰を折ったまま吹雪の隣に腰を下ろした。

「し、失礼しまーす…」

「いいのよ、気を使わなくって。なんてったって貴方は申し子だし、旦那はあれでも武蔵の長なんだからね…そういえば、あれも最初にここへ呼ばれたときには、口上もしどろもどろで、聞いてるこっちが恥ずかしいくらいだったっけ。」

中国地方の狗族の筆頭、颶の隣に座った飃が不満げに鼻を鳴らした。

「あぁー…気をつけたほうがいいぞ、吹雪。年を取るほど昔のことを良く思い出すというからな」

「だまんなさいよ、ウラニシ」

鋭い一瞥と牙が、ウラニシの笑顔に向いた。彼は吹雪の剣幕を笑い飛ばし、その場の空気が和らいだ。円形の部屋が笑い声に満ちる。

青嵐の傍らの狗族が、穏やかな喧騒を鎮めた。

「よろしいですかな」

白い髪と髭は、老齢に拠るものではないだろう。言わば狗族の王座につく青嵐は、浅黒い肌に黒い装束、黒髪からのぞく黒い耳の、正真正銘、純血の黒狐である。いっぽう、柳の老木のような印象を抱かせる老人は、白を基調とした衣装をさらりと着こなしていた。長くて立派な髭と髪は、彼の性格を現すように真っ直ぐで、トリートメントでもしているのかと思うほどに見事だった。しかし、金縁の丸眼鏡の奥にある目は鋭く、私のそんな不謹慎な推測など、口にする前に一笑に付してしまえるような印象を与えた。

「虎落(もがり)爺、この放蕩頭首がようやくそこに大人しく座って、感慨もひとしおだろう」

御祭が、調子のいい冷やかしを飛ばす。冷たそうな印象とは裏腹に、虎落と呼ばれた老人はその様相を崩し、好々爺のような笑みを見せた。

「そうとも御祭。とうとうこの代で青嵐の血が途絶えるのかとはらはらしとったのだからな」

一方青嵐は、ばつが悪そうに、南風と目を見交わした。周りの賛同もあって頭首の旗色は益々悪い。

「まあ、この間の一軒で面目躍如と相成ったわけじゃがな!なかなかどうして、やるもんじゃわい」

助け舟を出したウティブチに、虎落は言った。

「ああ、じゃがこちらの身にもなってくれい、神妙な顔つきで戻ってきたと思えば、やれ九尾は身罷った、妻を娶ったと申される!寿命が縮みましたわい」

「ほんに手が早う御座いますな!」

と、悪ふざけに便乗したウラニシが言った。

「さて、あまり若をいじめられますな。後でこの虎落がお叱りを受けてしまう」

そして、手に持った巻物をするりと開いて、円に並んだ顔をぐるりと見回した。居並ぶ狗族も居住まいを正して、途端にその場の雰囲気が変わった。


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