飃の啼く…第24章-21
それにしても、見れば見るほど違和感を感じさせる。能力的に、この澱みはせいぜい低級。なのに身体だけは完全体に近いといっていいほどだ。
逆に戸惑うような速度で、一番手前の澱みがこちらに向かってきた。しかも、澱み特有の触手は使わずに素手で、それもチョップでもするつもりなのか、どうどうと、うーうーと声をあげ、手刀をふりあげて走ってくる。
全く、あの白衣の狗族たちの慌て様―狗族どころか、これじゃあ男の風上にも置けないんじゃないの、と思いながらも、七星で腕をきり飛ばそうと身構えた。次で、核があるであろう旨に一突きをお見舞いして、終わりにしようと思った。澱みが痛みを感じるのかどうかは知らないけれど、迅速に終らせるのが私のやり方だ。しかし、腕に切り込んだ七星を、私は信じられない思いで引いた。
「澱みじゃ、無い…」
骨に当たる感触。そして、剣を伝ってくる赤いもの。
「澱みじゃない!」
私は恐怖に駆られた。そして、5体の、何か得体の知れないものに背を向けて駆け出した。
我々が作った…もっと素晴らしいものになるつもりだったのに…失敗ばかりが重なった…
「あれは何なの!!」
結界の向こうにいるせいで、狗族たちの顔は赤紫がかった、妙な色に見える。何人かは恥じ入ったように俯き、あるものは秋声の顔色を伺った。誰も答えようとしないので、私は更に声を張り上げた。
「言え!あれはなんだ!」
数人が、私の声に驚き顔を上げた。長い沈黙の後、消えいりそうな声で、誰かが言った。
「志願者だ…」
とがめるような目線に少々たじろぎながら、背の小さい狸狗族が行った。
「澱みに対して耐性を持った狗族を作れないかと…色々やった…しかし、結局は澱みに侵食されて、ああなってしまった…」
狗族は、力なく首を振った。
「我々も尽力したんだ。しかし駄目だった。もう正気のかけらも…残っては居ない」
「もう、もとには戻せないの?」
うなずいた。
「ああ」
結界を殴った。一度。力の限り。
―囚われた彼らを、解き放ってください
「よく、見ておきなさい…目を、背けずに!」
私は狗族に背を向け、“彼ら”と向き合った。
何で志願なんかしたのよ。
馬鹿じゃない、あんたたち、みんな馬鹿。
澱みは狗族になりたがって、狗族は澱みになりたがって。
何で
何で!
何でよ!!
―貴方は、優しい子です。