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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第24章-20

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しょっぱい角砂糖という言葉は、マッチョな研究職という言葉と同じくらいありえない。つまり、何が言いたいかというと、この北奥にいる狗族たちは、全くあてにも頼りにも出来ないということだ。

武器は無い、兵士たちは龍のところへ行ってしまったし、そもそもここと青嵐会の本部とは同じ屋根の下にありながら全く別の建物であるかのように連携が取れていない。もしこの異変に気づいたとしても、その時までに彼らが生きている保証は無い。

実験体、と呼ばれた澱みたちは、知能としても能力としても未完成のように見えるのに、不思議と人の形をしていた。顔は虚ろで、固まっていない体液がぼとぼとと滴り落ちる様子を見るに、“実験”とやらの首尾の悪さが伺える。どちらにしろ、姿を見たのはこの部屋に来た時のほんの短い間だったし、研究室の扉は外から閉めてしまったからそれ以上詳しくは見られなかった。研究者はマッチョではなかったが、結界を張ることは出来る。研究室の中でガラスケースを打ち破った実験体は、結界がなければ5歳児にだって壊せそうな扉の向こうで暴れている。彼らの張る結界にしても時間稼ぎにしか成らないだろう。

それにしても、一体何を作ろうとしたのだろうか。武器の強度やら、呪法の効果のほどを確かめるのに、わざわざ実験体を作る必要があったのか?それこそ、さっきの澱みから切り取った体の一部で、澱みは無限に作ることが出来る……アレは一体、何?

私の背中の彼女はじっと黙ってしまって、苦しみに耐えるように微動だにしていなかった。

「い、一体何故暴走なんか―」

青白い顔を更に青ざめた狗族が呟いた。

「黷の呼びかけに応えてるんじゃないの?澱みの本能が、強い力の呼びかけに応えてるって、さっき言ってた」

「あれは…我々が作ったんだ…暴走なんかするはずが無いのに…もっと素晴らしいものになるつもりだったのに…失敗ばかりが重なった…あんなのは、我々が求めていたものじゃない…」

青白い狗族はショック症状を起こしたのか―やれやれ―もごもごと呟きながらその場にくず折れてしまった。そのせいで結界のバランスが崩れ、扉がみしっと言う不穏な音を立てた。

私は、意を決して立ち上がった。どうせ時間の問題だったのだ。こうなったら、少しでも早く飃が私を見つけてくれることを祈るしかない。

「私が行く」

不思議と怖くは無かった。

私は内側から結界を通り抜け、研究室の扉を開けて勢いよく駆け出した。実験体の動きはさほど早くなく、身をかがめれば、私なら楽に実験体の背中側にまわることが出来る。

―1、2、3、4…5体。なんだか、フランケンシュタインの怪物みたいだ。がたいはいいのに、その体を制御し切れていない。力は強いだろうが、この調子なら何とかなりそうだった。5体がゆっくりと身体をこちらに向け、私たちは対峙した。

私は背中に居た彼女の身体をそっと床に下ろし―結果以内においていくと、殺されてしまいそうな気がしたから―固く目を閉じて何かに耐えている彼女を見た。この実験体を倒した後のことは、考えていない。少なくとも、彼女を、戦いからも狗族からも離れた場所に連れて行って、身を潜めていられるように取り計らうことはできないだろうかと考えていた。


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