Stargazers-5
「うるせぇっ!じゃあやってやるよ…っ!」
「ははっ!そうこなくっちゃ!」
彼はスピードを上げた。戦闘機の熱を体に感じることが出来るほどの近さまで。カジマヤが追いつかないので、ウリジンベは振り向いた。彼は、近くの小島の、木の茂みにも似た森の樹に降り立って、カジマヤが追いつくのを待つつもりだった。けれどそこに、大きな影が落ちたのだ。旋回してきた戦闘機…戦闘機の真後ろを飛んでいたウリジンベの耳は、耳鳴りで、もう、何も聞こえていなかった。後ろから必死に呼びかけていたカジマヤの声も。
「ウリジ―!!」
爆音が響いた。カジマヤの声も、ウリジンベの姿も、そこで途絶えた。
熱い爆風に乗って、鉄臭い匂いと火薬の匂いが痛いほど鼻を焼いた。背中から押し寄せる熱の波がカジマヤをよろめかせ、環状の青い波が彼の浮かぶ下を追い越して広がっていった。
「…ウリジンベ…!」
空中で急停止したカジマヤの目の前で、大きな筒が一つ、また一つ落ちて、それが空中で割れ、中から幾つもの小さなものが飛び出た。それは、何も知らずに風にそよぐ緑の木々の上に雨のように注ぎ…
無秩序な爆風がいたるところで発生し、鳥達が狂ったように木々の間を縫って逃げ出した。そのうちのいくつかが海に落ちて…小さな赤い染みが広がった。
「やめろ、嘘だ、やめろ・・・・・」
今すぐそこに居るはずの友人のもとに向かいたいカジマヤの足を止めたのは、恐怖以外の何物でもなかった。
「やめ…!嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!!」
死の匂いがした。あまたの獣達の、木々の、そして、何も知らずにその島にいた狗族たちの死が、今現実に、彼の目の前で起こっている。混沌と狂気と、紛れもない熱と金属と爆風の中で、沢山の死が起こっていた。
「やめろぉおーっ!!」
無我夢中で…時間も、空気も、音も、停止した。理性やその他の感情すら背後に取り残して、カジマヤの心にあるのは怒りだけだった。
いや…
怒りすら、無かったのかもしれない。
知っていた。彼がすでに息絶えているであろうということは。おそらく、あの金属の爆風に飲まれて死んでしまったのだということは。
耳鳴りも聞こえない。機械の鳥の甲高い、断続的な叫び声も耳に入らない。自分の叫び声すら、認識できない。
「この野郎おぉおぉぉ!!!!」
機械の鳥が、一機、二機、三機…われを忘れたカジマヤの前には、現代科学の粋を搭載したその機体も停止しているに等しかった。機首を転じてもと来た道を戻ろうとする…何も無かったかのように、自分らはただ、その島の上を通過したに過ぎないとでも言うかのように、あまりにあっさりとその場を後にしようとする機械の鳥…カジマヤは追いついた。無謀な真似をしているとは思わない。凄まじい放射熱で歪む空気の轍をかいくぐって機体の真下につく。ものすごい気流が、カジマヤを追い払いたがってでもいるように空気を叩きつけてきた。彼はひるまなかった。