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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stargazers-4

「向こうでやることがあるんだよ…」

東京に居る彼の友人達と、夜毎彼らと行う都会の澱み討伐が刺激的ではないとは言うつもりもない。あの大きな澱みを倒してからは、このあたりでそれほど大きな澱みの被害も出ていない。カジマヤは、飃とさくらがやってきて、あの澱みと対峙した時に味わった高揚感をもう一度味わいたくて、ちょくちょく東京に出向いているのだ。風を操り天を駆ける狗族にとって、そのくらいの距離などどうということはない。その気軽さもあって、今では東京に行かない週などなくなった。

続く言葉を言いよどむカジマヤに、ウリジンベが何か言おうとした瞬間、空気を震わせる甲高い音がした。お互いが目を一瞬見交わして急いで耳をふさいだ次の瞬間、ものすごい爆音が空を引き裂いて、それを追いかけるように風が空気をさらっていった。

二機のハリアー戦闘機。聴覚の優れた彼らには、その轟音は脳髄を揺さぶるほどの衝撃に等しい。かすかな音が聞こえた時点で耳をふさがなかったら、しばらく何も聞こえなくなってしまっていただろう。その戦闘機が消えていった方向を、ウリジンベの目がじっと見ていた。

「この島にだって、やることはある。」

その目に、憎悪に等しい怒りが宿っていたのを、カジマヤは確かに見た。次の瞬間、ウリジンベはカジマヤの視界から消えた。

「ウリジンベ!」

耳の奥に残るキーンと言う高いうなりを無視して、カジマヤも彼の後を追った。彼が何をするつもりなのか…カジマヤにはわかった。



カジマヤたちは小さい頃、この島の上空を行き交う戦闘機やヘリによく“ちょっかい”を出してあそんだ。人間の姿のまま、時にはシーサーの姿で戦闘機の操縦士の視界を横切ったり、窓を叩いたり…過激な奴は、突風を起こしてヘリを揺らしたりさえした。それらは全て、牽制のつもりでしたことだ。あの騒音には誰もが悩まされていたから、止める大人も居なかった。少し危なくはあったけど、その遊びはシーサーの子供達の格好の暇つぶしだった。

でも、あるときその遊びがぱったりと止んだ。

一人のシーサーが、戦闘機の熱風に焼かれて、死んだのだ。それはカジマヤとも仲のよかった男の子で、風を起こすのがとてもうまかった。戦闘機の後ろに回って、下から風を巻き上げて機の尻尾を浮かせてやろうと皆で計画した遊びの中でのことだった。

大人は誰も叱らなかった。一番ショックを受け、打ちひしがれ、後悔しているのが、子供たちだと知っていたから。そのことを証明するかのように、以後同じ遊びは二度と起こらなくなった。それは暗黙の了解だった。死んだ小さな友人のために、これ以上無為に命を落とすことはしてはならない。そのかわり、あの空を裂く戦闘機と、戦闘機を飼うフェンスの向こうの人間達への憎悪が根深く心の中に残った。或いはそれは、澱みに対して抱くよりも鮮やかな憎悪だったかもしれない。澱みは毎日襲ってくるわけではないが、あの騒音は毎日彼らの頭上を横切って日に日に耳を蝕んでゆくのだ。



「止めろよ!ウリジンベーっ!!」

カジマヤの言葉に、彼は少し振り向いた。目が見えるほどではなく、かすかに頭が動いた程度ではあったが。ウリジンベは、また危険な遊びをカジマヤの前でして見せることで、カジマヤをこの島に止まらせようとしているのだ。この島にも刺激があるということを示そうとしている。あるいは、戦うべき相手がいるということを。

「いつからウミカジの真似をするようになったんだよーっ?!」

その言葉でカジマヤは決心した。


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