The kiss and the light-1
見よ
来る
遠くよりして疾行するものは銀の狼
その毛には銀光を植ゑ
いちねん牙を研ぎ
遠くよりしも疾行す。
ああ狼のきたるにより
われはいたく怖れかなしむ
われはわれの肉身の裂かれ鋼鉄となる薄暮をおそる
きけ浅草寺の鐘いんいんと鳴りやまず
そぞろにわれは畜生の肢体をおそる
怖れつねにかくるるにより
なんぴとも素足をみず
されば都にわれの過ぎ来し方を知らず
かくしもおとろへしけふの姿にも
狼は飢ゑ牙を研ぎて来れるなり。
ああわれは怖れかなしむ
まことに混閙(こんとう)の都にありて
すさまじき金属の
疾行する狼の跫音(あのと)をおそる。
萩原朔太郎『狼』
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「君が、菊池美桜か?」
少女と始めて出会った時、彼女はひと気のない公園のジャングルジムの上で、アイスを食べていた。寒い冬の平日で、にび色の雲が、寒さを追い求めるように凄いスピードで北へと流れてゆく風の強い日だった。
「みつかっちゃった」
と、彼女は言った。そして、俺の顔をまじまじと見て、信じられない、とでも言いたげに笑いの篭った声で
「あなた、外人?」
と聞いた。
「ご存知の通り」俺は言った。
「狗族だよ」
彼女がアイスを食べ終わり、鉄の棒を組み合わせた味気ない玩具から降りてくるのを待った。
「何でこのくそ寒いのにアイスなんだ?」
彼女は、前髪を真一文字に切りそろえ、後ろ髪は二つに分けて結んでいた。それが、もともと童顔のアジア人の顔立ちをもっと幼く見せた。