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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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The kiss and the light-8

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彼と出会った日のことを、彼女は今でもよく覚えていた。青嵐会という組織を知らないものは、警察署内には居ない。少なくとも、名前だけは絶対に一度は聞いたことがある。彼女は名前だけでなく、その組織の胡散臭い活動内容も知っていた。理解しているとは言えないものの、オカルトや超常現象専門の便利屋という認識にけちをつけるものは居なかった。同僚がまことしやかに囁く、人間以外のものの存在…馬鹿らしいけれど、確かに彼らは人と雰囲気が違う。有名なのは飃という背の高い長髪だ。その彼は正確には青嵐会の所属ではないが、たまに見かける青嵐会の者たちと親しげだったし、同じ雰囲気がした。彼らは人間の世界に深入りしようとせず、また深入りさせなかった。飃やら風巻やらというのが姓なのか、名なのかそれすらわからない。口数は少なく、最低限の情報だけで仕事を完璧にこなす。一見、どこも変わっているところなど無い様に見えるのだが、侵しがたい威厳というものが備わっていた。中谷美紀は、人外云々という戯言には耳を貸さなかったが、少なくとも彼らを不気味だとは思っていた。自分自身も、あまり込み入った人間関係を形成するのが苦手な中谷だったが、人を見下すような態度の青嵐会の奴らのことは最初から嫌いだった。

だから、初めて西洋魔術という名のペテンに詳しい、ハーフの男が青嵐会の紹介を受けて署にやってきたときには、中谷は少なからず驚いた。第一に、彼には他の“仲間”のような尊大な態度が無かった。確かに変わっていたが、それは他のものたちのような雰囲気があるからではなかった。



「あんたのパートナーになった、中谷よ。よろしく」

青嵐会が嫌いだったから、その意思表示も兼ねて、彼女は自分の机の上の書類から目を離さずに無愛想な自己紹介をした。彼は後ろに立って彼女を見下ろしていた。そして、失望したように

「女か…」

と呟いたのだった。

その場にいた誰もが予想したとおり、彼女は1秒の内に振り返りながら立ち上がり、

「だから、なんだっての」

と、初顔合わせの相手と、文字通り顔を合わせたのだった。見上げた時初めて、男と目があった。面白がるような目だと、最初に気付いたのはその事だった。次に、銀の硝子のような瞳の奥に、金色の灯火が見えた。彼は威勢のいい女警察官の顔を見下ろしてため息をつき、

「いや。女運がねえんだなって」

そう言って一歩下がり、手を差し出した。

「飆だ」

「女だと思わないほうが身のためよ。いろんな意味で」

彼は笑った。青嵐会の者が笑うのを見たのはそれが初めてだった。

「そうするよ」



その彼が、自分に向って言ったのだ。

―頼む、と。

彼の目に映っていたのは女?それとも仕事仲間、それとも…それとも何?ていうか自分はなんだと思って欲しいわけ?とにかく、彼が彼女に頼んだのは初めてだった。

中谷は、彼の家の近くのコンビニの前で、お茶のペットボトルを片手に煙草を吸っていた。近頃じゃ、家の中以外で煙草が吸えるのはコンビニの店先ぐらいだ。おまけに飆は絶対に自分の半径5メートル以内で煙草を吸わせない。匂いが鼻を潰すからだと言っていたけど。誘蛾灯にまとわりつく虫を見ながら、彼女はため息と一緒に煙を吐いた。


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