The kiss and the light-6
「お前の能力を侮るつもりは無いよ」
彼女は呆れて物も言えないと言う顔をして俺を見ていた。
「だが頼む。今回だけは俺の気の済むようにさせてくれないか」
中谷は、道路の中央線のあたりを睨みつけ、ゆうに3分は黙ったままどう答えたものかと考えていた。もうすぐ、彼女の家に至る最後の曲がり角を曲がろうと言う時、彼女が口を開いた。
「あんたが“頼む”って言ったの、初めてね」
「そうか?」
「そうよ」
マンションの前に車を止めた。彼女はまだ中央線を見ている。
「今回だけは、あんたの言うとおりにする。上の許可は…」
俺が何か言う前に、彼女は車を言った。
「降りてるのよね、あんたは青嵐会だもんね。服とってくる」
そして勢いよくドアを閉め、きびきびとマンションに入っていった。
『地獄より』
この書き出しに、何度でも血がざわめく。
『From hell.
飆君
先日のプレゼント、喜んでくれたことと思う。実に見事な“Jackbox(びっくり箱)”だっただろう?もっとも、箱の中身はほとんど抜いてあったがね。
初めての出会い以来、君はよくやってきた。気付いたかね?今までに10人、君は僕から救うことが出来た。どちらが勝っているかはあえて言うまい。君が一番よくわかっているのだろうから。しかし、一番守らなければならぬ女を奪われるとは…運が悪かったな。
これが最後だ。
Catch me when you can Mister Whirl.(捕まえられるものなら捕まえてみるがいい、飆君)
Yours truly
Jack the Ripper . 』
そして、同封された女の写真。
「なんつー変態を相手にしてるの、あんたは」
中谷はあきれた声で言った。
「…1888年8月。ロンドンのホワイトチャペル付近の裏路地で、一人の女が死んだ。名前はアリーン・マクラウド。頚動脈を切られたことによる失血死。」
中谷は怪訝そうな顔をして、俺と、俺が見ている写真と、彼の翳った表情を見ていた。
「何を―」
手を上げて遮る。