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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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The kiss and the light-36

―私は、今、泣いている。

指を噛んで、食いしばる歯の隙間から獣のような呼吸をする。泣くことを自分に許してはいけない。全て終るまで、瞳を曇らせてはいけない。

中谷は、ガラスケースに再び手をつけて、ゆっくりと電気のスイッチを探した。

―あった。

手に覚えのある、一般的なスイッチ。そっと押すと、閃光弾を食らったように目が馬鹿になってしまった。さっき泣いた涙ごと、目をこする。徐々に地下室の輪郭が露になった。

「これ…は…」

それは、狂気と享楽の部屋だった。

極彩色と金の装飾に彩られた部屋はさながら宮殿の一室で、猫足の豪華なイスから、天蓋つきのベッド、電気式のシャンデリアにいたるまで、贅をつくした家具で統一されていた。部屋の中央にあるベッドからは、ガラスケース…が見回せるようになっている。

―あの寝台から、自分の作品を見回して眠りにつくのだ。

中谷は自分が降りてきた穴を見上げた。まだ誰かが降りてくる気配は無い。とりあえず近くの机の上にあったペーパーナイフを手にとって、再びガラスケースのほうへ近づいた。光の反射のせいでよく見えなかった中身が、不意に幕を取り去ったように露になる。

まるで、人間の成長の過程を水槽の中に再現した模型だった。一番右の水槽には、中谷の肩から指先までの大きさの男の子供が浮かんでいる。青白いその皮膚は、おそらくずっと水(多分ただの水ではないのだろうが)に浸かっていたせいでぶよぶよと緩んでいた。

その次の水槽はそれより一回り大きいが、同じように男の子供で、外見は15、6歳だが、外見の年齢に見合わない小さな身体をしていた。右へと移動するごとに、子供の年齢も、身体の大きさも次第に本物の人間に近いものに近づいてゆく。全て男の子供で、髪の色から、身体から、全て奇妙に類似していた。

―なんなの、これは、なんなの。

最後の水槽を覗いたとき、中谷は思わず後ずさって、机にしこたま腰をぶつけた。そして彼女は理解した。

―これはみんな、あの男の“着替え”…。

その時、机の上に乗っていたランプが落ち、ガラスの割れるけたたましい音がした。

全てのクローンが、同時に、中谷を見た。

死んだ魚のような目で。虚ろに、虚ろに中谷を見た。そのくせ、答えを求めるような好奇心をむき出しにして。

中谷は息を吸い込み、一番成長度が高い水槽の前に立ち、クローンの目を見て、もう一度深く息を吸った。拳を振り上げ、クローンの目を見て、ガラスに叩きつけた。何度も、何度も。ひびが蜘蛛の巣のように重なり、ついに水槽の下から水が漏れ、そして崩壊した。なす術もなく流れ出たクローンは人形のように床にへばりつく。中谷はペーパーナイフを握ってそいつにまたがり、力任せに首をかき切った。七体のクローンの目は依然中谷を捕らえたまま、中谷もクローンの目を見たまま、その目に光りが差さなくなるのをじっと見ていた。

一体目のクローンが死に、中谷を見る目は六つになった。培養液は生臭いにおいがして、少し粘着質だった。中谷は二つ目の水槽を叩き割り、中谷を見る目は五つになった。三つ目の水槽から三人目を引きずり出し、目は四つになった。四つ目の水槽に、血まみれの拳を突っ込んだ時、後ろから頭を殴られた。


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