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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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The kiss and the light-37

「この…薄汚い売女め!!」

培養液だらけの床に倒れこむ。振り返ると、肩をいからせた男が立っていた。怒りに顔は蒼白となり、不自然に若い顔つきは怒りのために歪んでいた。

「自分が何をしたかわかっているのか!?」

しかし彼は何か言う前に、変わり果てた自分の分身に駆け寄ると、膝を突いた。

「私の器が…私の…」

くらくらする頭を押さえつけ、中谷はその光景を見た。魂の無い人形を抱いて、慟哭する男。自分の姿を抱いて慄く、恐ろしい光景。男は自分の顔をかきむしり、狂ったようにうめきながら中谷を振り返った。

皮膚の剥がれ落ちたその顔、腐った肉がかろうじて骨にしがみ付いているような醜悪な顔だ。

「こっちへ来い!!」

男はそう言い、怒りに任せた乱暴な動作で、中谷と自分との間にある空を掴み、手繰り寄せた。中谷の体は見えない網に捕らえられたように自由が利かなくなり、男のもとへ引きずられた。絨毯に爪を立てて抵抗するもむなしく、中谷の顔が男の真下に来る形になった。

―私は売春婦に恨みがある。

1888年9月27日に新聞社に送られた手紙の一部分だ。

「梅毒ね…」

男はかっと目を見開いた。

「先天性のな!父親が汚らわしい売女に手を出したせいで…俺まで地獄に道連れになるところだったのだ!オックスフォードを出、展望の明るかったこの私の将来を!賞賛の的だった私の経歴を!下らぬ病などで閉じさせていいわけが無かろう!!」

「だから…死なないように…」

「身体の中身を全て入れ替えるのだ!それしか助かる方法は無い!研究のための材料には困らなかったよ…何しろロンドンには畜生にも劣る人間がごまんといたのだものな!」

男は立ち上がり、中谷の体が動かないように呪いをかけたまま歩き回った。

「何人殺したか知れない…梅毒もちの娼婦から、孤児やら、貴族やら…だが、医学だけでは足りなかった。悪魔だの天使だのといったまやかしの最奥にある真理を、私は求めた…魔術などという安っぽい呼称などふさわしくは無い…!私が見つけたのは真理であった…」

「人の命を塵以下に扱う、それがあんたの言う真理?自分の分身を、ちまちまこんなところで作って、夜寝る前にそれを眺める、それがあんたの真理なの!そんなの真理なもんか…ただの悪あがきだ!!」

「黙れ!!」

男が拳で中谷を殴り、口の中に血の味が広がった。

「あの男は助けに来ないぞ…もう最後の痙攣も終った頃だろうな」

そう言って男は笑った。笑い声が、地下の壁に吸い込まれて消えてゆく。

「嘘…!」

飆が死んでしまった…。この男を殺す頼みの綱が死んでしまった。頼みの綱…そして私の、私の―

中谷は四肢に渾身の力をこめた。男もそれに気付いて、面白がるように見下ろしている。


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