想いの輝く場所(前編)-8
「……なんで、こんなこと」
一言呟いた時。
「あなたたち」
背後からの言葉にビクッと肩を震わせる。
「こんな所で油売ってないで、早く帰りなさい。下校時刻はとっくに過ぎてるわよ」
後ろを振り返ると、腕を組んだ奏子が立っていた。
初めて見る奏子の冷たい視線。
違う。
言いかけて止める。目の前には美和がいる。
「…はい」
力なく返事をして。
オレはただ、目の前を奏子が通り過ぎていくのを見てるだけしかできなかった。
言いようのない不安に襲われる。
まるで足元が揺らぐ様だ…。
息が、詰まる。
「帰る」
不安から苛立ちが抑えきれない。
自分でもぞっとする程低い声だった。
げた箱に向かって歩き出すと、美和が後ろから袖を引っ張ってくる。
「悠は…」
下を向いていた顔をあげて、睨みつけて来た。
強気な瞳に涙を浮かべて。
「私の気持ちなんて最初から見てくれてなかった!」
美和の気持ち…?
「ただの遊び相手としてしか…、私はずっと悠を見てたのに」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
「セフレでも良かった。それでも近くにいれるならって思ってた。悠は誰にも本気にならないって思ってたから」
美和が一気に感情を迸らせる。
オレはただ単に美和がからかってちょっかいを出してくるんだとばっかり…。
本気で好きな人が出来た今ならわかる。
好きな人の眼中に入らないことがどんなに辛いか。
――でも
「……ごめん、美和の気持ちに応えられない」
なんとか声を絞り出す。
「…学校の先生を好きになったって不毛じゃん、どうせこっちを向いてなんかくれないんだからっ!」
ゆっくりと美和を見つめる。
「……それでも好きなんだ、どうしようもないくらい」
もしこれで奏子に嫌われても。
これだけは嘘つけない。
オレが呟いた一言に、美和は言葉を失ったようだった。
「ごめん」
立ち尽くす美和を残してオレは玄関に向かった。
外は雨。
冬の冷たい冷たい雨。
オレは傘もささずに学校を飛び出した。
今日はバイトがないから、そのまま奏子のマンションに向かう。
でも。
いつも帰ってくる時間を過ぎても、日付が変わっても。
奏子は帰って来なかった。