桜が咲く頃〜心〜-1
ここは大笑(おおえ)。
沢山の人が集まる街。
この国の中心部。
バタバタバタっと誰かが走ってくる音がする。
瞑想を止め、障子を見る人物。
名前は鈴(りん)
小柄で、手足は細いのに剣術は強い。
いつも男物の服を着て、自分のことを、俺と呼ぶが、女である。
ちなみに鈴とは、以前仕えるていた主が付けた名である。
ばっと障子を開けた人物。
名前は矮助(あいすけ)
この国の中心人物、福永家に古くから仕える名家、山村家の次期当主である。
ある日、矮助は鈴が女だということを知る。
その後鈴は、風邪をひいて寝込んでしまった。
そんな鈴を看病していたのは矮助。
鈴はそのことに気付き、はじめは警戒していたが、次第に心を開いていく。
矮助の看病のかいあって鈴は元気になり、屋敷を出て行くと言ったとき、矮助は鈴の看病代(宿泊代、食事代、薬代等々)満金30枚を請求した。
鈴は、一度は憤慨したものの、世話になったのは事実、と払うことに決めたとき、財布がないのに気付く。
払えないのを知った矮助は、1日満金1枚で鈴を雇おうと提案をする。
ところで、鈴の財布がどこに行ったかというと、実は矮助が隠し持っている。
なぜなら、こうすればよその護衛として働き、その間女だとばれないよう気を使う必要はないという矮助の思いやりなのだ。
また、矮助の鈴と離れたくないという想いも含まれている。
しかしこの思い、鈴はまだ知らない…
話を戻して…
『鈴!何も言わずに、うんっと言ってくれ!!』
『意味がわからん』
鈴の部屋に入るなり土下座をする矮助。
それに対し、怪訝な顔をする鈴。
『俺の頼みが聞けないのか!』
今度は立ち上がり怒る矮助。
『とりあえず説明しろ』
冷静に対応する鈴。
『説明を聞いたら、うんって言ってくれるか?』
『それは説明を聞かないとなんとも…』
『うんっと言わないなら、請求金額倍にするぞ!』
『何故そうなる!?』
そんなやり取りを経て、最後は、
『頼むから、うんっと言ってくれ〜』
と泣かれ、鈴はしぶしぶ矮助の頼みを聞くことにした。