「続・嘆息の時」-2
「おいおい、お前が落ち込んでどうする? 早く行ってやれ。彼女らは俺じゃなく、お前にアドバイスと慰めを求めているはずだ」
「は、はい! すみませんでした!」
柳原の言葉に、沈んでいた顔がパッと生気を取り戻した。
沢木は、スッと起ち上がって柳原に深々と一礼し、慌てたようにフロアーへと走っていった。
沢木の奴、まだまだ伸びる要素をいっぱい持ってやがる。
このまま行くと、あっというまに俺なんか抜いちゃうだろうな……。
俺は……あいつを憎んでいるのか?
強く当たるのはそのせいなのか?
馬鹿もほどほどにしなきゃな。情けない。
俺は、決してあいつを嫌いになってはいけない。
俺にはあいつを育てる義務がある。
あいつは……あいつは俺の立派な後継者なんだから。
沢木と愛璃の二人に対し、いまだモヤモヤを払拭しきれないでいる柳原は、そっと胸の中で自分に言い聞かせるよう呟いた。
新しい煙草を咥えなおし、フッとあの夜のことを思い出してみる。
触れ合う唇の隙間から聞こえてきた、クチャクチャといった淫らな音……遠目からぼんやりとしか見ていないので、二人の唇がどのように重なり、どのように唇を変形させたのかは分からない。また、淫音を醸し出していた舌はどれほどの卑猥さで絡んでいたんだろう。
願ってもないのに、脳が勝手にぼんやりとした部分へ厭らしい妄想を貼り付けていく。
はあ……柳原の口から、煙草の煙と一緒に嘆息が漏れた。
あのとき愛璃は、間違いなく沢木を受け入れた。
俺がいる空間の中で、セックスまでしてのけた。
壁から聞こえてきた愛璃の喘ぎ声……息を切らしたように、短くて小さな悲鳴。
その声色からは、拒絶や躊躇いなどまったく感じられなかった。それどころか、とてつもない歓喜に満ち溢れているようだった。
舌を絡めとられ、乳房を揉まれ、あそこに熱い鉄槌を打ち込まれ、愛璃は身も心も至福を感じていたのだろうか。
それは、もう俺に何の未練も残さない……完全に恋愛対象から外したという証なんだろうか。
柳原は、嘆息を漏らさずにはいられなかった。
「店長、休憩中にすみません」
「んっ、ああ、いいよ。どうした?」
「いえ、篠塚さん親子がお食事に来られたので、お伝えしとこうと思いまして」
「ああ、分かった。ありがとう」
従業員からの報告に、柳原は邪念を払うようにパン、パン、と両手で自分の頬をはたいた。
そうして、鏡の前で口角を大きく二度三度釣り上げてから、ニカッ、ニカッ、と大袈裟な笑顔を作った。
「ふう……よし!」
白シャツの裾上に黒のソムリエサロンをギュッと締め、背筋をピンと伸ばして颯爽とフロアーへ出ていく柳原。
短めの黒髪を綺麗に後ろへ流し、精悍な顔には嫌味のない笑顔を浮かべている。
柳原がフロアーに出ると、そこにはいつも何かしらの特殊なオーラが出ていた。