Blossom-2
キョウヘイはトイレのドアの後ろに隠れていた。
「あたし、一回ここに来たのに気づかなかった…」
「盲点だろ?ドアの後ろは」
「キョウヘイ絶対鬼にならないでよ。すぐみんな見つけそうでつまんないもん」
ユキはふくれっ面をしながら言う。
みんなはそれぞれ頷く。
キョウヘイは常に校内1位の成績を手にしている秀才なのだ。
また、イケメン担当。
「てか鬼は一番はじめに見つかったやつだろ?」
キョウヘイは笑いながら言う。
「あ、あたしか!」
そんなことまるで忘れていたリサは驚いた声をだす。外見に似合わず優しくどこか抜けた子だ。
アンナは、自分が大変だったからと理由で鬼をもう1人追加しよう、と提案した。
じゃんけんでコウヘイに決まる。
「次、最後まで見たらなかったら何かそいつの命令に従う、とかすればおもしれーじゃん」
それだけじゃつまらない、とキョウヘイが言い出した。
みんなは渋々了承する。
「わかんないとこに隠れないでよ?…いーち、にーい、さーん…」
玄関にある下駄箱。
そこに顔をおしつけ数え始める。三十まで。
ユキはヒロトと一緒に隠れるようだ。
キョウヘイは少し考えてからどこかに歩きだした。
さて、どうしようか…そう思っていると
ソウが意味有り気な視線でアンナを見おろして言う。
「一緒に隠れる?」
アンナは眉間に小さな皺をよせる。
「…隠れない」
小さく口早に言うと体育館の小さな部屋へむかう。
振り向かないように努める。
(…なんでそんなこと言うの…)
アンナの心の中には渦がぐるぐると巡っていた。
それは単に恋心、などではない。
(気にしない気にしない…)
アンナとソウは去年の冬から春の間・実に3週間ほど、付き合っていたのだ。
みんなに内緒で。
グループ内での恋愛が特に悪かった、ということではない。
現にユキとヒロトはとてもいい雰囲気だ。周りから見ていても微笑ましい。
アンナ達の場合は単に、恥ずかしかったのだ、お互い。
高校1年というまだ中学生の気持ちが抜け出せない、なんとなく照れてしまう、そんな時期だったからかもしれない。
照れ屋だったからかもしれない。
二人はギクシャクしていた。
誰にも言わなかったけれど、それに気付いた人はいるかもしれない。
好きあっていた。しかし、別れてしまった。
恥ずかしかったから別れたわけではない。
それは……………。
(考えない!!!)
一瞬頭をもたげたある出来事がアンナの頭を覆う。
首を小刻みに振る。
春休みをはさんで、最近やっと気持ちが落ち着いてきたのだ。
『一緒に隠れる?』
あの言葉は反則だ。これまでの努力を無駄にするつもりだろうか?
先程見つけた部屋へと早足で歩く。窓から見える揺れる木々はアンナの心とは反対に爽やかに揺れている。