双子月4〜葉月〜-4
「あ、ゴメンね?そんなんじゃないんだ。」
どん底に突き落とされた葉月をそっと救いあげるように、拓海は優しい声で続けた。
「俺のマンションからの眺め、すごく気に入っててさ。それを葉月ちゃんにも見せたかったんだ。ゴメンね?俺っていつも肝心な言葉が抜けるんだ・・・」
葉月がはっとして顔をあげると、拓海は腰をかがめるようにして、葉月に顔を近づけた。
「俺は、葉月ちゃんが好きなんだ。俺のそばにいて欲しい。」
拓海のまっすぐな瞳で見つめられた葉月は、その目を反らすことも出来ず、ただ静かに涙が溢れた。
「・・・私、穢れてる。キレイなカラダじゃ・・・」
「俺は、葉月ちゃんがいいんだ。全部ひっくるめて葉月ちゃんなら、それも含めて全部が好きだから。」
拓海はにっこりと微笑んだ。
純粋だったのはいつ頃までだったろう。父、母に甘え、姉妹で笑いあえていたあの頃の記憶がふと蘇った。
葉月の中の幸せの記憶。
今まで閉ざしていた眩い扉がゆっくり開くように、枯れていた泉に豊かな水が湧き出すように、葉月の中を暖かい気持ちが満たしていく。
張り詰めていた糸がぷつんと切れたように葉月は声をあげて泣いてしまった。
「・・・葉月ちゃん。」
小さな子供のような葉月に、拓海は少し戸惑いながらそっと大切に抱きしめた。それだけのことが、今の葉月にはすごく幸せな行為に感じられ、拓海の胸に顔を押し付けて泣いた。
店内の抑えめのライトアップに火が灯り、間もなく開店の時間を迎えようとしていた。