双子月4〜葉月〜-3
「こんばんは。」
「あ、葉月ちゃん。いらっしゃい。」
葉月は様子を伺うように控えめに声をかけたが、拓海はすぐに気がつき、にっこり笑って手招きをした。
「ゴメンね、バタバタしてて。もうすぐ店開ける時間だからさ。ここにどうぞ〜。」
そんなに広くないブースだが、拓海の示す先にはコンパクトな折りたたみの椅子があった。
「いえ、呼んでもらってありがとうございます。」
葉月は言われた通り椅子に座ると、作業を進める拓海の背中を見上げた。
「急に声かけちゃってゴメンね。今日は俺が葉月ちゃん呼んでってお願いしたんだ。」
「え?」
拓海は葉月を振り返りまた笑った。
「高野さん利用しちゃった。」
葉月はつられたように笑顔になる。
拓海は不思議だ。
一緒にいる人を笑顔にする力を自然と持っているようだ。
イメージでいえば、色ならオレンジ色、太陽みたいな人だと、葉月は思っていた。
狭い空間に二人きり。
葉月は自分の心臓の音がさっきからドクン、ドクンとうるさいのに気づいていた。拓海に聞こえてしまっているんじゃないかと思うと、顔が熱くなった。
「あのさ、葉月ちゃん。俺って葉月ちゃんの恋愛対象圏内?」
突然の質問だった。
照明の暗い室内では拓海の表情があまりよく見えない。
「・・・え?」
「俺、葉月ちゃんが好きなんだ。」
拓海はごく自然にそんなことを言う。あまりにも普段通りの声音であっさりと放たれた言葉を理解するまで、葉月は手間取ってしまった。
「・・・拓海さん。」
一番嬉しい言葉のはずなのに、どこか夢の中のような気がして、声が上擦ってしまう。
「いきなりゴメンね。でさ、よかったら今夜家に来ない?」
相変わらずいつもの調子で話す拓海のその急な提案に、葉月は困惑してしまった。
「・・・私、親しい人とウリはしないんで。」
それは葉月なりの理解。
葉月の経験から結びついたその言葉の解釈
体目当て
葉月は今まで、お金で買われたセックスしかしたことがない。それは男の欲望を満たすだけの男本位のセックスだった。葉月は男が喜ぶように演技をし、男をいかに満足させるかだけを考えていて、いつもその行為をしているときはひどく冷めきっていた。
男はみんなそんなもの。
葉月は誰かを愛するという気持ちを閉ざしてしまっていた。
しかし、ある日突然、その心に小さな暖かい火が灯された。それが拓海だった。
初めて会ったその時に、なぜか拓海はほかの男たちとは違うような気がしたのだ。
それなのに・・・