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あなたの傍で〜言の葉〜
【純愛 恋愛小説】

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あなたの傍で〜言の葉〜-4

 夕飯を食べ終えた僕らは二人で片付けを済ませ、僕は煙草を吸うために外に出た。
もう日は沈み、辺りは静寂な空気に包まれていた。
鳥や虫の鳴き声、風に揺らめく木々や海から聞こえてくる波の音。
自然が奏でるカルテットは僕に安らぎと癒しを与えてくれる。
邪魔な街灯は一切無く、月明かりと星の輝きだけだ辺りを照らしている。
都会の中では決して味わえない、何ものにも代え難い贅沢な時間。
そんな時間を過ごしていた僕は、干していた自分の服が見え、現実に引き戻されながら、ふとあることを思い出した。
浜辺で拾ったハンドミラーを、上着のポケットに入れたままだった。
服の内側にしまわれていたハンドミラーは、よくよく考えればこれも漂流物なのだから、もしかしたらクゥの物かも知れない。
僕はそれを手に持ち、小屋のドアへと向かった。
するとドアが開き、中からクゥが飛び出してきた。
そして僕を見付けると、駆け寄ってきたクゥが抱き付いてきた。
どうやら僕がどこかへ行ってしまったのではないかと、勘違いしたらしい。
抱き付かれた僕は、ちょっとドキドキしていた。
どうしたらいいもんかと悩んでいた。
とりあえず、クゥの両肩を掴み、眼を見つめながら『大丈夫!だいじょうぶ!』と笑顔で語りかけた。
クゥは今にも泣きだしそうな表情で『だいじょーぶ?』と聞き返してきた。
僕はもう一度『そう、だいじょうぶ!ここにいる。クゥといっしょ!!』とゆっくり語りかけた。
言葉は通じなくとも、想いは伝わる。
『クゥといっしょ!だいじょーぶ!』
クゥは笑顔になっていた。そこで僕は、クゥにプレゼントだと言い、ハンドミラーを手渡した。
喜ぶだろうと思っていた。けれど、クゥの笑顔は消えていた。
そして…泣いていた。
両手でハンドミラーを強く握り、何度も、なんども同じ言葉を繰り返していた。言葉は理解出来ないが、直感した。
家族の呼び名だろうと強く感じられた。
まだどこかで生きている。きっとまた逢えると希望を持っていたはずなのに、僕はそれを打ち砕く物を見せてしまった。
独りとなってしまった少女の悲痛な心の叫びが、僕の心に深く、深く響く。
今では形見となってしまったそれを胸に抱き、少女はその場に座り込み泣き崩れた。
どうすることも出来なかった。
慰めの言葉を掛ける勇気もなかった。
臆病な僕は、ただただ見守り続けることしか出来なかった。


 いつしかクゥは泣き止んでいた。
いや、嗚咽が止んだだけでまだ涙は頬を流れている。しかし、それも必死に堪えクゥは前を向いて立ち上がった。
それを見た瞬間、今度は僕がクゥを抱き締めていた。考えての行動ではない。
衝動的にだった。
自分でも驚いていた。
けれど、そんな驚きよりも僕がいる、安心して欲しいという気持ちのほうが大きく上回っていた。
それに、どんな言葉も見つからない僕は、こうすることしか出来なかった。
そんな僕の気持ちを察したのか、クゥはまだ震えている声で『だいじょーぶ!』と僕に言った。
自分が一番辛いはずなのに心配させないよう、一生懸命強がって僕を気遣うクゥが、健気で、愛らしくて、僕はより強く、壊れてしまうほどに強く抱いた。
『とうやとクゥ!ずっといっしょ!だいじょうぶ!』と僕は叫んでいた。
叫び続けていた。
クゥはずっと胸の中で頷いていた。
僕は叫ぶのを止め、クゥの顔を見た。
少女は微笑んでいた。
僕はその微笑みに惹かれていた。
初めて見る少女の大人びたその表情に、僕は心を奪われていた。
そして、その微笑みを心から大切にしたいと思えた。僕がクゥをずっと守り続けると心に決めた。
誓いを建てよう。
僕はそっと少女に甘いキスをした。


僕は今日、運命と出逢い、孤独とさよならをした。


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