はるのゆめのごとし-8
次の日の朝。
春風の携帯電話が鳴った。
春風は起き上がると慌ててそれに出て、数秒後には何だという顔をして話していた。どうも相手は雨水らしかった。
しばらく雨水と短く言葉を交わしてから分かったと言い残して電話を切る。
春風がリモコンを取りにベッドを降りる。
私はすっかり忘れていた。
春風に会えた喜びで。
一昨日の事を。
「お仕事?」
欠伸を噛み殺しながらそう尋ねると、春風は首を横に振ってテレビをつけた。
ベッドサイドに置いてある時計は7時を指している。
「なんかね、テレビを見ろって」
パチンと音がしてテレビの画面が明るくなる。
静かだった部屋が騒がしくなった。
朝のワイドショーでは『Rain Empty 緊急生会見』の文字がどこの局でも映って、雨水が一人で会見を開いていた。
『えー、お集まりの皆様にご紹介します。本人はまだこういう場に不慣れでして、写真のみになりまして申し訳ないのですが……』
テレビの向こうの雨水が私と春風に向かってにやっと笑った。
『Rain Emptyの最後のメンバー、専属モデルの華燭(かしょく)です』
雨水の発表に合わせて一昨日撮った私の写真が大きなパネルで公開される。
フラッシュが飛び、マスコミからたくさんの質問が浴びされた。
が、雨水はそれには答えず、ただ一言、
『華燭については今後一切情報を公開しません。またテレビやラジオ等の出演も行いません』
と短く締めくくりその場を後にしていた。
すぐにメインキャスターのいるスタジオに画面が映り、様々な憶測が飛んだ。
あの一年に探して来たとか、オーディションをやったという噂があったとか。
春風がテレビを消すと室内は静まりかえった。
春風を恐る恐る見上げると怒った様な驚いた様な顔をして私を見て、しょうがなく全部を話すと、春風は大笑いした。
「雨水に感謝しないといけないね。これでりつもRainのメンバーだから。嫌だって言ってもこれでずっと本当に一緒に居れる」
そっと春風は私に口付けする。
なるほど。
私もやっと全部が分かって、雨水に感謝した。
この日から、ずっと前からだけれど、私にとっても雨水が世界で一番大事な友人になった。
「でも」
と春風が唇を離してから口を開く。
私がうん?と目を開けて春風を見つめると同情したような顔をして私を見ていた。
「雨水はああ見えてものすごく厳しいからりつはRainが解散する日まで甘いものをお腹一杯食べる事は出来ないね」
あっ、と、気づいて、思わずため息をつく。
それでもよく考えれば甘いものを我慢するだけで春風と暁と雨水と一緒に居れるのならそれはたいした犠牲じゃないのかも、しれない。