はるのゆめのごとし-7
すっかり寝過ごしてドアチャイムで起こされる。慌ててドアを開けるとテレビで見る雨水がそこにいた。
「寝てたの?」
小さく頷きながらまだしばしばする目をこする。
ぷっと吹き出し、雨水は私の無防備なローブの前を閉じてくれた。
「きゃっ、あっ」
慌てて両手で押さえるも、もう遅い。
「りっちゃん、昨日パーマかけたから今日も髪くるくる……っていうか寝癖」
雨水がまたくつくつ笑う。
慌てて洗面所に走って行き髪を両手で撫で付けた。
「俺は仕事なの。……暁、見たい?」
洗面所の入り口で雨水がもたれ掛りながらそう言った。
少し迷ってから私は大きく頷いた。
スタジオっていうのはすごく埃っぽいから、と、雨水が買ってくれた少し大きいマスクをかけ、ごちゃごちゃと物が溢れるスタジオの機材に隠れて、すごく久しぶりの暁を見た。
少し痩せて、またかっこよくなっている。
体がうずうずした。
今すぐ走っていって抱きつきたかった。
暁が歌う姿をたっぷり拝見してから私はそっと抜け出してタクシーで春風のマンションへ向かった。
「これで鍵が開くからね。オートロックだけど分からなかったら電話して」
雨水がスタジオの前で別れる時に渡してくれた鍵。
小さく頷くと、雨水はにっと笑って魔法の言葉を私の耳元で呟く。
「金平糖の瓶はもう空っぽ」
私は嬉しくてちょっと泣いてしまった。
雨水は優しく頭をぽんぽんっと撫でてすっかり芸能人の顔をして中へ入って行った。
人目を気にしながらそそくさと春風の部屋に入ってびっくりした。
実家の近くに借りた部屋とはぜんぜん違っていた。雰囲気も全部。
ただ、食器棚には私のグラスがあった。
だから、いつものように冷蔵庫を開けてミルクコーヒーを作った。
半分くらい飲んだら疲れが出たのか凄く眠くなってしまって、探検のつもりで入ったベッドルームで思いっきり春風の匂いがしてふらふらっと倒れこんで眠ってしまった。
物音で目が覚めると、そこに、春風が立っていた。
せっかく雨水が綺麗にメイクをしてくれたのに、セットしてくれた髪もぐちゃぐちゃで、それでも嬉しくて抱きついた。
三回目のキスをして、私は初めて春風に抱かれた。
その夜はずっと頭を撫でてくれて、本当は何度か幻かと思って起きたけれどその度に春風の綺麗な身体や大好きな顔や優しい眼差しを見て安心して顔を春風に寄せて寝た。