はるのゆめのごとし-6
「そう。CDのジャケットやポスター。プロモに出て貰う。もちろんちゃんと事務所と契約してもらうし、ギャラも出る」
「……え、でも、そんなの困る」
雨水が差し入れのお菓子の袋を開けた。
ふわんっとチョコの甘い匂いが漂う。
「どうして?どうせ無職なんだし、いいじゃない」
高級そうなチョコをつまんで雨水の指が私の口に近づく。
思わず口を開けてしまい、チョコは舌の上で溶け始めた。
「でも……なんで、私なの」
「りっちゃん、結構美人だし。それに、暁が書く詩に俺が曲をつけてて、暁がイメージしてるのはりっちゃんだし、俺もわかっててそれに合わせてるし。……適役でしょ?」
「でも両親にも言ってないし」
「大丈夫。出てくるの、反対されなかったでしょ?」
その言葉に思わず咳き込む。
「どうして知ってるの?」
雨水が慌てて背中をさすってくれながら答えた。
「この事ご両親に話したんだ。真面目にビジネスの話として」
「え、えぇっ!」
思わず立ち上がって雨水のスーツをを掴んでいた。
「だから、大丈夫。……時間だよ、行こう」
ほら、と、抱き上げるように立たされ、ドアのノックが聞こえて、スタッフに言われるまま、私は呆然としながら付いていった。
「お疲れ様。今日はこのホテルに泊まって?明日迎えに来るから」
高級そうなホテルの前で私は下ろされた。あの後数時間一発で偉そうだと分かる人の前やら色んな人が入れ替わり立ち代わり見に来る中、写真を撮られた。何枚も何十枚も、もしかしたら百枚くらい。
色んな事を言われたけれど全部上手くなんか出来なかった。
それでも全部終わったら雨水は誉めてくれた。
「もちろん、明日アイツが最後の一粒を食べなかったらりっちゃんは何も無かったように帰れるよ」
ドアボーイに雨水は名前を告げて私の事を頼むとそのまま去って行った。
私一人で泊まるには勿体無いくらい夜景が綺麗な部屋で、一人、携帯を見ていた。
雨水から送られてきた春風の写真や少しの間やりとりした春風からのメール。
それからこの一年一度も掛けなかった春風の番号を。
「あかつき」
「はるかぜ」
交互に声に出してみる。
どっちも同じ、私の大好きな人。
明日、本当に会えるだろうか。
不安で、不安で、その夜は寝付けなかった。