はるのゆめのごとし-4
物心付いてから初めての一人旅で、新幹線に乗っても物珍しくてしょうがなかった。
だから、退屈する間もなくあっという間に東京についた。
改札がたくさんあって本当に迷ったけれど、三十分もしないうちに雨水が私を見つけてくれて、一年前とは違う車に乗せてくれた。
「東京は空気が悪くて調子悪くない?」
少し煙草くさい車内でシートベルトを締めて雨水が言う。
小さく首を振ってそれに答えると、それはよかった、と行き先も告げずに発進させた。
「どこ、行くの?」
私と雨水はすっかり仲良くなっていた。すっかりタメ口で話していたし、最後の三ヶ月はメールも毎日していた。
「内緒。……覚えてる?俺との約束」
小さく頷く。雨水は赤信号で止まると自分のポケットから飴玉を何個か出し、私の方へ放った。
「お願い?」
「そう」
ありがたく飴玉を頂戴してセロハンを剥いて口の中に入れる。少し大きいそれは口の中でごろごろと位置を変えた。
「それを果たしにいくの。……大丈夫、君の春風はちゃんと金平糖を食べているよ」
「でも、明日にならないと分からないじゃない」
口から飴が出ないように気をつけながら反論する。
「大丈夫。付き合いが長いから分かるんだ。……それにね」
車は大きく右側へカーブする。
「明後日になってからじゃ遅いんだよ。暁の物になってからじゃ絶対に許してもらえない」
びっくりして目を開く。雨水は私の視線なんてこれっぽっちも気にしないように順調に車を走らせ、一時間後には小さな白いビルの前に停まった。
「降りて。俺もすぐに行くから。変な人に話しかけられても無視するんだよ」
一旦外に出てからドアを開けてくれる。手を貸してくれて、私が荷物を持って外に出ると、指を差しそのビルの前の花壇を示した。
「あそこで待ってて」
運転席に戻る雨水を見送ってのろのろと人にぶつかりながら花壇に辿り着き、そっとレンガの淵に腰をかけた。
最低限の荷物しか入れてないのに旅行鞄は少し重い。
五分くらいたって雨水が戻ってきた。サングラスをかけて帽子を深く被り咥え煙草で。
「ごめん、待たせた」
私が立ち上がると同時に雨水は私の手から鞄を取り軽々と持つと白いビルの磨かれたガラスのドアを押し開けた。
そこはよくテレビで見るようなエステで、熟女と呼んでぴったりの女性が雨水を歓迎していた。
「この子、例の。綺麗にしてあげて」
雨水が親指で私を示す。
女性は私の前に立つと簡単に自己紹介をして、私の手をぐいぐい引っ張って奥へと連れていった。
数時間後、信じられないくらい肌がつやつやになった私が鏡の前にいた。