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はるかぜ
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はるのゆめのごとし-3

「側に居たいだろう?」

雨水の声が優しくなった。
だから、甘えてしまった。

「うん」

雨水が満足そうにうんうんと頷く。

「暁もさ、りっちゃんが居たほうが良いと思うよ。事務所とかそういう煩わしいのは俺がどうにかするから」

雨水はいつの間にか私の事をりっちゃんと呼んでいた。

「……でも、私、暁を独り占めなんて出来ない。だって私よりずっと暁を好きな人たちがたくさんいるから。その人たちに悪いもん」

涙が浮かぶ。
鼻水が出そうで、慌てて啜ったから、きっと雨水さんには分かってしまっただろう。

「……りっちゃんはさ、暁よりも春風を好きになればいいだろう?春風はりっちゃんだけの物なんだから」

「……」

「大丈夫、今は、暁のかっこいい所だけ見たから春風より好きだと思ってるだけだよ」

「そう、かな」

「そうだよ。だからさ、もし、暁……いや、春風かな。春風が金平糖を食べ終わってすべてが上手くいったら、俺のお願いを聞いてくれる?」

「…お願い?」

涙を指で拭ってその手で扇風機を回す。
風が髪の毛をふわふわと躍らせる。

「そう。簡単な事だから。……それをしたらもっと暁と一緒に居やすくなるから」

さっぱり分からなかった。
でも、雨水と話して、春風にもう一度会いたくなった。
だから、その要求をのんだ。


それからしょっちゅう雨水からメールが来た。ある時は暁の様子だったり、愚痴だったり、隠し撮りした写真だったり。

それを心待ちにしている私がいて。
でも、肝心な事は教えてくれなかった。

金平糖がちゃんと減っているか、だけは。



もうすぐ一年になろうという一週間前、突然家に雨水から手紙が来た。新幹線の切符と共に。
けれど、それは金平糖が無くなる前日だった。

一筆が添えられていて、ただそれには言う通りにしろとだけ書かれていた。

簡単に荷物をまとめて、薬を貰いに行った。
それから東京の方の先生を紹介して貰った。

その夜、両親に話をした。
姉が生んだ孫に夢中の両親はまるで関心が無いかのように東京に行くことを許してくれて、でも、母は嬉しそうに笑っていた。

結局、両親は今でも私の味方で居てくれる。




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