陽だまりの詩 19-6
その後はお父さんと遅くまで飲み明かした。
「お父さん…もう…飲めねぇっす」
「ぬぅあにー?」
「もう寝ますよ」
俺は言いながらその場に寝転がった。
「ぉおー寝れ寝れ!根性なしが…」
お父さんも言いながらぶっ倒れると、すぐに大いびきをかき始めた。
お父さんもあまり変わらないな…
う…俺もだめだ、寝よう…
しばらく天井を見つめていたが、やがてゆっくりと目を閉じた。
意識がまどろみかけた頃、微かな物音で目が覚めた。
お父さんが寝室に戻ったのか?
いや、音はこちらに向かっている。
ずっ…ずずっ…ずっ…
床を這うような音。
これはやばい。
この家には何かいる…
「…誰だっ!」
俺は意を決して素早く体を起こすとすぐさま身構えた。
「きゃっ!」
「っ!?か…奏?」
幽霊だと思った者は、パジャマ姿の奏だった。
どうやら足を引きずってきたらしい。
「…どうしたんだ?」
「あ…春陽さんがいるって考えたら眠れなくて…春陽さんの様子を見に…」
暗くてよく見えないが、確かに奏は顔を赤くしていた。
「わざわざ階段を下りてきたのか?」
「慣れれば簡単ですよ」
両手をひらひらと振って、小さくえへへと奏は笑う。
「そうか」
いつか怪我するんじゃないかと心配になったが、そのことは咎めなかった。
家ではいつもそうしているだろうから。
「あの…」
「ん」
奏は激しくもじもじと体を動かしている。
「春陽さん、キス…してください」
「はぁ!?」
思わず大きな声を出してしまった。
何言ってんだ奏…
「春陽さんにキスしてもらうと、とても暖かい気持ちになるから…」
「……テーブルの向こうではお父さんが寝てるんだぞ?」
「大丈夫です。お父さんは、一度寝てしまうと朝まで起きませんから」
奏はくすりと笑って俺に身を寄せてきた。
正直、したかった。
「……ばれてもしらないからな」
「はいっ」
そうして俺たちは、暗闇の中でキスをした。
何度も何度も唇を重ねるうち、お父さんが同じ部屋で寝ているという背徳感と、おかしな程に積極的な奏に魅せられて、俺は止まらなかった。
そして俺たちは、ほんの少しだけいやらしいことをした。
「奏」
「はい」
「愛してる」
「私も春陽さんを愛しています」
そして名残惜しみつつ、もう一度だけキスをして、俺たちは一緒に眠った。
翌日、先に起きたお父さんの雷が落ちたのは言うまでもない。
俺は奏とずっと一緒にいる。
ずっとずっと。