陽だまりの詩 19-2
***
異常に緊張しながら、ノック三回。
「…春陽です」
「入れ」
奏の明るい声を期待したが、答えたのはお父さんの低い声だった。
ゆっくりと扉を開ける。
「……奏?」
奏はいなかった。
ベッドの周りにあった機械なども片付けられ、部屋は妙に閑散としている。
「…お父さん、奏は?」
「……春陽」
お父さんは神妙な顔をしている。
そう、複雑そうに。
「お母さん…」
「…っ…うっ」
お母さんは突然、泣き出した。
涙を堪えながら。
そのとき、またも俺の頭はオーバーヒートした。
「待てよ!!騙したのか!?まさか…奏は…!」
ベッドを見る。
そのとき気付いた。
ベッドにはシーツや枕はなく、使用されていない初期の状態に戻されていた。
「嘘だ!俺は奏と…!奏と結婚するんだよ!お父さん!俺は奏とずっと一緒に…!」
叫びそうになった瞬間、お父さんは言った。
「合格だ。春陽」
「!?」
振り返る。
目の前には、車椅子に乗った少女が俺を見て微笑んでいた。
「……か…な…で…?」
「…えへへ」
どうやら俺は、またも騙されたらしい。
だから重い嘘はつくなと、前に言ったのに。
でも…
嘘でよかった。
「奏!!」
「春陽さんっ!」
俺は片膝をついて奏と同じ高さになると、ぎゅっとその小さな体を抱きしめた。
奏もすぐに腕を回してくれた。
その手の指にはリング。
「春陽、奏をお前にやる。大切にしろ」
「……え?」
視界に入ったお父さんは確かにそう言った。
「試したんだよ。これが最後だ」
お父さんは笑顔だった。
多少にやついているのが気になるが。
「お父さんったら、最初からそのつもりだったくせに」
お母さんも笑っている。
まったく、泣き真似が上手い人だよ。
「……ありがとうございます。大切にします。必ず」
「えへへ」
騙されても怒りはなかった。
逆に助けられたよ。
また自分を責めてしまいそうで、どんな顔して奏に会えばいいかわからなかったんだ。
本当にこの人たちは…暖かい。
陽の光のような家族だ。
だから俺も、これからその仲間に入れてもらおう。