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陽だまりの詩
【純愛 恋愛小説】

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陽だまりの詩 19-3

***

俺は、慣れた手つきで車椅子を押して歩く。
このアングルで見る奏は、やっぱり小さく見えて可愛い。

外は寒いので、入院患者の団欒室に入る。

年末だからなのか、俺たち以外は誰もいなかった。

俺は奏を抱きかかえて二人掛けのソファーに座らせる。
俺も隣に座れば、十分に肩を並べられる。
奏が自分で立てないことなど忘れそうなほどに普通な光景だ。

「もう体は大丈夫か?」
「足は痛みますけど、もう頭は大丈夫です」
そう言って包帯を巻いた額を撫でる。
「そうか…本当に助かってよかったよ」
「…心配かけてすいませんでした」
俺のほうを向いて頭を下げる。
「いいんだ」
「それから…その…プレゼントも買えなかったです」
もじもじと体を動かす。
「来年、期待してる」
「はいっ!」
拳を作って眉を吊り上げる。
「なに力んでんだよ」
「あ…そういえばこのリング…」
指輪を見つめる。
「…ん?」
「お母さんが…その…きっと結婚指輪だって…言ってて」
顔を赤くして俯く。
「そうだよ」
「ええっ!?」
顔を赤くしたままひどく驚く。
「当たり前だろ」
「…クリスマスプレゼントなのに、いいんですか?こんなすごいもの」
しゅんとした顔をする。
「最初は別のペアリングを買ってたんだ。でも、奏が事故にあって、意識不明だっていうからな。前日に慌てて返して、これを買ったんだ。俺の願いが届くように」
「……いいんですか?」
俺をまっすぐな目で見つめる。
「なにが?」
「歩けない私と…結婚だなんて」
悲しそうな顔をする。
「もちろん、最初からいきなり結婚なんていうことはないぞ。まずは付き合ってからさ。でも、俺の気持ちは変わらないぞ」
「…そういえば、私がリハビリを終えたら付き合うって…でも、もう…」
涙目になる。
「もういいだろ。だって奏は、リハビリを終えた、じゃないか」
「……あ」
気付いたような顔をする。
「俺は確かにそう言った。だから、付き合おう」
「……はい」
赤い顔で微笑んだ。


そうして俺たちは、キスをした。


やっぱり、奏はいろいろな表情や仕草を持っている子だ。

だからそれも含めて全部愛してやる。

「……ふう、えへへっ」
「……はは」
キスを終えた奏は笑顔で泣いていた。
「初めてのキス、ですね」
「残念だが、違うぞ」
そう言いながら、俺はついにやついてしまう。
「え?」
「昨日、奏が眠っている間にファーストキスを奪ってやった」
胸を張って言ってやった。普通は犯罪な気がするが。
「ええっ!」
「悪いな」
「でも、すいません。私、ファーストキスはもう前に奪われているんです」
奏はしゅんとした。
「な…なに!?どこのどいつだ…」
「お父さんです」
「ぶーっ!!」
想像してしまったああああ!!
「えへへ」
「お前な…そういうのは無しなんだよ」
「そうなんですか」
「ああ」
「じゃあ、春陽さんです」
「だよな、だよな」
ふう、よかった。
「はい。だから、ずっと私と一緒にいてください」
「……ああ、ずっと一緒だ」


それから俺たちは、自然と幾度もキスを交わした。


やっと俺たちは、恋人同士になれたんだ。


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