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Memory
【純愛 恋愛小説】

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MemoryU-2

*
放課後を知らせるチャイムは、生徒の表情に輝きを呼び戻す。解放的な空気に包まれた教室は、喧騒としていて、人の出入りが激しい。
『相川君。』
荷物をまとめ席を立った俺を、可愛らしい声が呼び止める。浅倉早苗(アサクササナエ)、俺のクラスメートだ。小柄で、瞳が大きく、天然茶の髪の毛は、ふわふわとしたパーマがかかっている。クラスの女子の中では多分2番目くらいに可愛い。

そして、準ミスは少し言いにくげに口を開いた。
『あの…これからみんなでカラオケ行くの。』
彼女は教室の入り口へ視線を流す。見ると、俺といつも連んでいる加賀と谷田が、俺にめくばせしていた。視線を戻した彼女は、俺の様子を伺いながら言葉を発する。
『それで…相川君もよかったら一緒にきてほしいなって…』
『早苗ちゃん無理無理〜!!』
浅倉が言い終わるか終わらないかのところで、加賀が口を挟む。
『そうだよ〜コイツ、最近放課後になったらすぐ帰っちゃうからさ〜。』
谷田も加賀に同調する。
『うるせーなぁ。』
と俺は笑ってみせる。けど、心の中は結構複雑。壁にかけられた時計をチラッとみた。やはり楓の家に行く事を考えると、遊びに行くのは難しい。
『浅倉さん悪いけど、今日用事あるんだ。また誘ってよ。』
『そっかあ〜残念…。またの機会にね。…でも、毎日どこに行ってるの?』
浅倉に悪気はない。しかし、俺は彼女の言葉にひどく狼狽してしまった。
抜け殻になった楓の姿を思い出し、俺は胸が押しつぶされそうになる。
『ちょっとな…。』
俺は曖昧に答えた。
『ふぅ〜ん。』
何か訳ありなんだね、と彼女の目が言っていた。
無機質な楓の姿は、脳裏に浮かんだまま、未だに幻影を留めている。…その姿を思い出すだけで苦しい。
俺が今日行った所で何が変わる?俺が来ようが来まいが楓にとって何が変わる?彼女にとって俺という存在はもう"無"に等しいというのに。俺の心をむなしさが覆った。
『早苗、もう行くよ〜!』
気づけば、加賀達に混じっていたクラスの女子数人が、彼女に手招きしている。
『は〜い!』
浅倉は元気良く返事をして、
『じゃあね。』
と俺に笑顔を送り、パタパタと加賀達の方へ駆けてゆく。
『あ…ちょっと待って!』
『なあに?』
ほとんど勢いで彼女を呼び止めてしまったので、言葉に詰まる。
『え〜と…俺もやっぱいくわ。』
『ホントっ!?ヤッタァ!!』
浅倉はその場で飛び跳ねた。
まぢ…俺何やってんだろ…。まぁ今日くらいいよな…?
行こっ、と俺の手を引っ張る浅倉の声で現実に戻る。嬉しそうな彼女の顔を見てると、少しばかり気が和らいだ。


結局カラオケは、男のメンツは加賀と谷田と俺。女は浅倉と彼女の友達2人の、計6人で行く事になった。ルームに入って腰かけると、浅倉と俺が隣り合わせになる。

『スゴクうまかったよ―!!』
歌い終わった俺に、浅倉が拍手を送った。
『ありがと。』
そんな誉め言葉に、顔にこそ出さないが、心中では結構嬉しかったりする。
『相川君は多才だね。歌も上手いなんて。』
浅倉は運び込まれたジュースを俺に差し出した。カラカラと氷が音をたてる。
『"も"??』
ジュースを手にしながら、俺は不思議に思って聞いてみる。
『だって、絵も上手じゃない。中学の頃、県のコンテストで準グランプリ穫ってたし。』
浅倉の言うとおり、確かに俺は中学時代に準グランプリを穫っていた。そして俺の描いた絵は何とかというホールに一年中展示されていたらしい。にしても驚きだ。浅倉があの絵を見ていたなんて。
『ああ〜…あれね。あれマグレ。』
笑顔で答える俺に、浅倉は、そんなことない感動したもん、と何度も首をふった。


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