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Memory
【純愛 恋愛小説】

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MemoryU-3

俺達がカラオケを終えて店を出た時、すでに日は落ち、辺りは薄暗かった。
『相川お前、早苗ちゃん送れよ。』
加賀の言葉に俺はうなずく。加賀と谷田は残った2人の女の子を送るらしい。
『また明日な。』
『おう!また明日。』
『相川君また明日ね〜。』
加賀達と女の子の声が入り混じる。
『じゃあ、浅倉さん行こうか。』
俺の言葉に浅倉は頷き、加賀達に、ばいば〜い、と手を振った。
帰り道。ネオンの明かりに照らされながら、浅倉が口を開く。
『相川君って、彼女いるの?』
笑いながら聞く彼女の瞳は、どこか真剣だった。
『彼女ね…。』
俺は無意識につぶやく。
今の楓を彼女と呼んでいいのだろうか?俺を好きだという想いを忘れた楓を…。一方的に好きだと感じる俺の想いだけで、楓の事を彼女と呼ぶのはただの自己満足のようにも思える。
『分かんね〜なぁ。』
『分かんないって…』
浅倉は不満そうに嘆いた。しばらく沈黙が続く。
『あたし、相川君が好きよ。』
『えっ!?』
突然の彼女の言葉に、俺は驚きの色を隠せない。俺達は立ち止まり、互いに見つめ合った。
『同じクラスになって、最初は怖そうに見えたけど、実は凄く優しくて…』
浅倉はそこで言葉を切った。深く息を吸う。
『…私の事今は好きじゃなくても、少しでも望みがあるなら付き合って欲しいの。』
浅倉は真っ直ぐな瞳で俺を見る。その視線が痛い。
断らねばならない…分かってるのに、俺の口は動かなかった。
『もしかして…彼女いるの?』
浅倉が不安そうに尋ねる。
『彼女っていうかなんていうか…。』
俺は言葉を濁す。
俺の脳裏に浮かぶ、幾ら話しかけても答えない楓。何をしても無表情な楓。彼女にとって俺は彼氏なのか?必要な存在なのか?
『…俺はこんなに好きなんだけど…』
俺は視線を落とした。涙がその後を追う。きっと浅倉にとって、今の俺の発言は支離滅裂だ。
『えっ…相川くん…!?どうしたの!?』
泣き出す俺に、浅倉は明らかに動揺している。
『急に泣いたりしてごめんな…浅倉。』
俺がそう言ったのとほぼ同時に、俺の体をふわっと浅倉の手が包んだ。
『浅倉!?』
『事情はよく分からない。…けどっ、相川君が想ってる女の人酷い。』
浅倉は抱きしめている腕を離さない。
俺は浅倉の言葉に反論もせず、ただ地面を見つめる。
『私だったら、相川君こんな風に悲しませたりしないのに…』
『浅倉…。』
浅倉の肩はかすかに震えていた。しばらく沈黙が2人を包む。そして決意したように俺は浅倉を引き剥がした。彼女の眼差しを正面から受けとめれない。
『…ごめん…。』
確かに、浅倉と付き合う方が楽かもしれない。こんな風に張り裂けそうな想いには多分ならないだろう。でも…
『浅倉の気持ちには答えられない…。』
俺はそういってうつむいた。
苦しいからといって、他の人のところへ行くのは間違っている。
そして俺の胸に深く刻み込まれてる想い。
逃げちゃいけない。痛みに飲み込まれて、流されちゃいけない。幸せになりたいから俺は楓と一緒にいるんじゃないんだ。
『あたしこそ…ごめん。抱きしめたりなんかして…。』
俺は首を振る。
『浅倉は悪くないよ。』
『でもっ…思わず相川君の好きな人を侮辱しちゃったし…。』
『それも気にしなくていい。』
小刻みに震える、彼女の肩を軽くたたく。前髪の隙間から覗きみるかのように、浅倉は俺の顔を見た。彼女の瞳に浮かんだ沢山の光る粒に胸がチクリと痛む。
『えっと…じゃぁ…あたしんち、すぐそこだから一人で帰るね。今日はありがとう。』
気まずい雰囲気に耐えかねたのか、浅倉はペコッとお辞儀しながら、そう一人でまくしたてた。そして俺の言葉も待たずに歩き出す。


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