歌声は絶えず今も響いてる-3
「なんで無視すんのー!! てゆーか待ってた方の身にもなれっ!! 私の貴い人生のさらに貴重なこの時期の時間を奪っておいて、その態度は人間として如何なものかな?」
一気にまくしたてる言葉は、間違いなく僕に向けられているみたいだし、後半口調なんか変だし、そもそも待たせた記憶ないし…
と僕が狼狽してる様を、黙って見ていた彼女は息を吸い込み、また口を開く。
「まあ、とりあえずさーお腹空いたよね? ってことで、行きましょうか」
僕の自転車の荷台に座り、何かいろいろと喋っているが、いまいち現実世界と僕は繋がり切れていない。
元々、小さな頃からサンタクロースも神様も幽霊も、いないことを教えられ育った環境のせいか、自分の中の常識的なものが覆されると、僕はいつもフリーズしてしまう。
そのせいか、意識があることを認識した時にはなぜか、ファーストフード店でトレイを持っていて、横には笑顔のナオがいたわけで。
「〜ってわけなのさ。 …ねぇ、私の話聞いてた?」
聞いていたわけもなく、嘘をつくには、つきとおす情報が足りなすぎるから僕は
「ごめん、帰りに駅で会った時から何も聞いてなかった」
と、常人ならありえないような、言い訳にも何にもならない言葉を告げた。
当然彼女は唖然とした。
何言ってんのコイツ?冗談言うにしろ、言い訳するにしろ、もっと現実的なこと言えよ。
とか、思ってんだろうなーみたいなことを想像しつつ、店内の空席に座る。
ナオも座り、トレイ上の(おそらく)コーラを一口飲んでから
「やっぱりね。」
とだけ呆れた口調でそう言った。予想とは全く違う反応に、僕は本日二度めの狼狽えモード突入。
「まあ、なんとなく気付いてたからいいよ。もう一回だけ話すから、今度はちゃんと聞いててよ?」
有無を言わせないような力強い言葉が僕に届く。
…僕には頷く以外に選択肢はなかった。
そこから彼女は、ポテトを頬張りながら話を始めた。
彼女は弾き語りながらあてもなく旅をしていて、昔バイトで貯めたお金を使って様々な街に行ってきたらしい。
この街は明後日去るつもりで、それまでは駅前のビジネスホテルで寝泊まりし、起きてる間は駅で弾き語りをするとのことだった。
正直、自分とさほど年齢の変わらない人が、そんな旅をしていることが信じられなかったし、何よりその彼女が僕を待っていた理由もわからないし、彼女の親は何をしているのか、など疑問が山のように積みあがる。
でも、暗黙のルールでそんなこと聞いてはならない気がするので、なるべく当たり障りもなく、なおかつ聞きたくてたまらなかった質問を選び、声に出す。
「ナオはすごいんだね。でも、どうして僕を待ってたりしたの?」
ナオの表情は時が止まったかのように動かなくなるが、僕の体感上で時は進みっぱなしで何かマズイことを気もして、焦りが蓄積されてきた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうし「それはねっ」
僕の焦りやらいろいろな感情を断ち切り、彼女はさらに言葉を繋ぐ。