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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-3

「日下くん」

振り返る背中。立ち止まる取り巻き。逸の瞳が友夏を捕えた。瞬時に困惑した色に染まる。
あれ、と友夏は思う。
(私がこの高校だって知らなかったのかな?お母さんと叔母さんのことだからてっきり話が行ってるって思ってたけど)
「あのね…」
「誰?」
女の子の一人が友夏の言葉を遮った。
「ぁ、えと…」
答えようとした友夏をまたしても言葉が遮る。
「知らねぇ」

……え?

友夏は耳を疑う。今の声は逸だ。その逸が「知らない」と言ったのである。
「おい、行こうぜ」
追い打ちをかけるように逸が連れを促した。突っ立つ友夏を一瞥しながら生徒達は背を向けていく。そうして彼らは廊下を曲がって行った。
「な…んで?」
擦れた声が友夏の口を出る。
「私、何かした…?」
心がズキズキと痛んだ。あんなに仲の良かった相手が自分を知らないと口にしたのである。気にするなと言われても、これは無理な話だった。
じわじわと溢れかけてきた涙を堪え、友夏はその場を早足で去ったのである。
これが二人の間にある壁となった出来事。二人が話さない原因だ。


「ああっ!」
しんとしていた空間に友人の声が響いた。びくっと体を震わせる友夏。
「なぁに?突然」
「五時半に拓と待ち合わせしてたんだった!」
言うと同時に席を立つ友人。拓というのは彼女の彼氏である。
「やだ、もう十五分過ぎてるよ。志保ったらー」
「だぁって…」
手早く荷物をまとめ、くっつけていた机を戻す友人。
「ちゃんと謝るんだよ。喧嘩して泣き言聞くのは嫌なんだから」
友夏が肩を竦める。
「分かってるー。じゃ、またねユカ」
手を振って友人は走り出て行く。パタパタと廊下を走る足音を聞きながら友夏は微かに微笑んだ。
「志保ったら、世話が焼けるんだから」


夕日の欠けらが西の空へ消えてから暫くたった。外は闇が覆い、所々で輝く明かりが際立って見える。
友夏は何気なく時計を見上げた。六時半。真っ暗な訳である。
「そろそろ帰ろうかな」
友夏はパタンと参考書を閉じ背伸びをする。今から学校を出れば丁度七時のバスに乗れるだろう。
荷物をまとめてから教室の電気を落とした。突如訪れる闇。小さく溜め息を零すと、廊下へ出る。光は無い。学年最後は友夏のようだ。
何だかそれが自分だけ置いていかれることを暗示しているような気がして、友夏は足を早めた。


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