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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-22

翌日から暦は師走となった。彼らの高校では、十二月からは選択している教科ごとに特別授業が行なわれることになっている。そのため全員で受ける授業は限られ、授業の有り無しがはっきり分かれるようになるのだ。
好都合か、はたまたそうでないか、友夏と逸は特別授業のせいで顔を会わせる機会がめっきり減ることとなった。
逸はそのことに少しホッとしていたところがある。あれほど自分の気持ちを曝け出し、友夏に突き付け、彼女を傷つけてしまったので会わせる顔がなかったのだ。
廊下ですれ違う時も、かぶっている授業の時も、逸は友夏を見ないようにしていた。視線を落とし、俯いて。まるで以前友夏がそうして逸を避けていたのと同じように。
それでも響いてくる友夏の声は彼の心をかき乱す。

抱き締めたいと。
傍にいたいと。
愛していると、心に悲鳴に似た叫びをあげさせるのだった。

ぐちゃぐちゃだったのは友夏への想いだけではなかった。
『私、逸くんが帝光受けるの、反対だからね!』
その友夏の言葉が胸に突き刺さり、どこを受験したらよいか全く分からなくなってしまったのである。
恋をしたことがある人は経験があるのではないだろうか?心から愛しい人の意見は自らの中で非常に大きな力を持つのだ。

今一番行きたいのは帝光。しかし友夏には行くなと言われた。
でも他の大学では友夏の傍にはいられない。だが友夏は……

こうして考えは堂堂巡りをする。そうして彼は勉強ですらできなくなってしまっていた。


十二月十日。
日下家のキッチンでは母親が夕食の準備をしていた。
傍のテレビでは初雪が観測されたことをニュースが告げているところだ。
「やっぱり寒い時は辛いものよね」
一人で頷きながらグツグツ煮え立った鍋の蓋を開けた。中は真っ赤な液体で満たされ、白菜だか椎茸だかがこれでもかというほど突っ込まれている。どうやらキムチ鍋らしい。
「わー美味しそう」
にっこり笑って味見をしようと小皿を取り出す――…

ピーンポーン

あら、と手を止めて母親は顔をしかめる。ちらりと時計に目をやると、もう後十分足らずで七時になるところだった。
「こんな寒い日に誰かしら」
火を止め、インターホンを取る。
「はい、どちら様ですか」
「あの…」
母親はハッと息を止めた。訪問者の声を遮り、彼女は話す。
「友夏ちゃんね?」
「はい…」
「ちょっと待ってて、今開けるから」
受話器を置くと、彼女は「さて」と腰に手を当てた。それから意を決したように玄関へと走っていく。

カチャ

鍵を開け、扉を押し開ける。そこに立っていたのは雪まみれの友夏だった。
「まぁ、友夏ちゃん、雪だらけじゃないの!風邪引いちゃうわ、お風呂沸かすから入ったら…」
ぶんぶんと友夏は頭を振った。
「逸くんに会いたいんです、会わせて下さい」
予想通りの言葉。母親はその目的を逸らせるように返事を返す。
「そんなことより風邪が心配よ。とにかく暖房にあたって、お風呂に入ったほうがいいわ」
「お願い叔母さん、逸くんに会わせて!お願いします!」
友夏は全く聞かなかった。ひたすら頭を下げて許しを請う。
「友夏ちゃん……」
逸母は困ったように友夏を見る。そしてゆっくり口を開いた。
「あのね、友夏ちゃん。驚かないで聞いて。はっきり聞いたわけではないけれど逸はね、友夏ちゃんのことが好きなんだと思うの。もちろん女の子としてよ?」
友夏は泣きだしそうな顔のまま、逸母の言葉を聞いている。


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