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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-2

アレは彼らが高校一年生の頃に遡る。桜の花が散り、生命力溢れる緑葉が陽の下で揺れている時期の出来事だった。
しかし今はその二、三ヵ月前辺りから話をすることにしようと思う。そう、中学三年の末くらいからだ。

中学生の頃の友夏の成績は平均より少し上辺りで、その位置が一番倍率が高くなるのだと先生に言われ、彼女は焦りの真っ只中にいた。
それに引き替え、逸は全国模試でも名が残る程トップクラスの学力を誇っていたのである。誰から見ても県内一の進学校に受かることは間違いなかった。
友夏と逸は校下が違ったため同じ中学ではなかったが、母親伝いに彼の状況を聞いていたので彼女は逸に感心しながら勉学に励んでいたのである。
「逸ちゃんの志望校、桜星(おうせい)らしいわよ」
母がそう言っていたから。
後で死ぬほど確認することになるが、そう、言ったはずだった。間違いなく。

卒業を迎え、友夏は志望校に無事合格した。とにかく遊びまくった春休みを終え、夢膨らむ入学式がやってきた。ところが、友夏はこの入学式で呆気にとられることとなったのである。

「新入生代表のあいさつ」

司会をしていた教頭がそう言った。誰かが壇上へあがっていく。そんな状況の中、空間に身を置きながらも友夏の頭は全く別のところに行っていた。
「桜の花も綻び…」
総代が語りだす。その声をどこか遠くで聞きながら、友夏は言い知れぬ懐かしさを覚えた。しかしその原因は分からず、ただ彼女は心地よい感覚に身を委ねる。
「平成十五年…」
いつの間にか締めに入っている挨拶。
「四月七日。新入生代表、日下逸」
言葉が終わると同時に友夏は頭にたらいが落ちてきたような衝撃に襲われた。


式が始まって初めて、彼女は壇上をまともに見る。そこにいたのは、紛れもない自らの血縁だったのだ。

えっ?なんで?

それが友夏の頭に浮かんだ言葉だった。それもそのハズ、彼が桜星を受けたと思っていたからである。
まずありえないが、もし、万が一桜星に落ちたとしてもここにいる訳がない人物なのだ、逸は。
一体何故だろうと考えてはみたものの、とうてい分かるはずもなく結果的に「居るんだから居るでいいじゃない」という結論に辿り着く。友夏はあまり深いことは気にしない性格なのだ。
そうして逸のことも気に止めぬまま高校生活が始まった。新しいことだらけの毎日は友夏にとってとても魅力的で、充実していた。
新しい友人もできたし、美術部にも入った。勉強は複雑になったけれども、毎日の楽しさがその苦痛を紛らわせてくれる。
そんな楽しい時間の中、運命の時は刻一刻と迫っていた。

その日友夏は珍しく寝坊をした。慌てて準備をしてバス停までダッシュしたお陰で遅刻は免れる。しかしそれだけ慌てれば何かをし損なう訳で、彼女は化学の教科書を忘れてしまったのだった。
「どうしよう…」
まだ五月である。クラスの子全員とも仲良くなっていないというのに、他のクラスに仲の良い者などいるわけがない。
そんな時だった、彼を思い出したのは。
(そうだ、逸くんなら。確か一組だったよね)
友夏は教室のプレートを見ながら一組へと駆ける。友夏は八組なので慣れぬ景色に少々戸惑いを覚えた。
フッと前方に視線を向ける。一組はもうすぐそこ。
と、その扉から生徒が数人出てきた。進行方向は友夏と同じ。つまり彼女には背しか見えなかったことになる。三人の男子と三人の女子。仲良さげに笑いあっていた。
その中の一つ。友夏は懐かしい背中を見つける。幼い頃はこの背ばかり追い掛けて歩いたなと瞳を細めた。
でも、と再び目前の彼を見止める友夏。

変わったね。
背も伸びたし声も低くなった。
逸くんも『男の子』なんだな―…

そう心に思い、友夏は声をかける。


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