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Memory
【純愛 恋愛小説】

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Memory-8

『今日は言いたい事があって、あなたを通してむらったの。』
静かに俺の耳元で楓が言う。"あなた"という言葉が胸に引っかかるーいつの間に俺達はそんなに遠くなってしまったんだろう…俺は寂しさに似た疎外感を覚えた。
楓は一息ついてから、息を吐き出すように言った。
『別れましょう。』

俺の中で一瞬時間が止まる。
『あなたとあたし、一緒にいても苦しむだけだもの。』
楓の声はかすかに震えていた。
『俺は嫌だよ。』
俺は抱きしめる手に力を込める。こうなる事は心のどこかで何となく分かっていた。
『…無茶言わないで。』
楓は俺から離れようとする。けれど17歳の男の力に勝てるわけがない。
『ねぇ…放してよ。』
『嫌だ。』
俺は即答する。そして、楓を抱きしめる力をもっと強めた。
『痛いよ…。ねぇ…放して。放してってば!!』
楓があまりにももがくので、俺は手を放さざるをえなかった。途端に楓は床に倒れこむ。
『俺は別れる気ない。』
静かに言い放つ。その瞬間、彼女の中で何かが切れた。
『私記憶なくしちゃうのよ!?あなたの事もいつか忘れちゃうのよ!?今だって、寄生虫が私の頭を食い荒らしてて…どんどん…どんどん…昔の記憶が曖昧になってきてるの。小学校の頃の事なんてほとんど思い出せないんだからっ!』
たまらず俺は再び彼女を抱きしめた。楓は俺の胸の中で泣き叫んだ。きっとずっとずっとため込んでいたんだろう。彼女の思いが、涙とともに流れでた。
楓が泣いている間、俺は何も言わずに、彼女の背中をさすった。
ー何時間、いや何十分たっただろうか。楓の泣き声も収まり、静かな空気が二人を包む。
『なぁ…楓。』
楓は返事をしない。
『楓はさ、俺の事なんて考えずに、思いっきり甘えていいんだよ?俺は全部受け止めるから。…俺は楓と一緒にいたいと思ってる。それが永遠だろうと、どんなに短かかろうと。…だから…別れるなんていうなよ。』
楓は再びだまりこくる。そしてしばらくしてから、彼女はかすかに頷いた。


『じゃあな。これからは毎日来るから。』
はれぼったい目をした楓に、別れ際俺は言った。彼女はコクッと頷く。
『じゃぁ』
『ぁ…待って。』
歩き出そうとする俺を楓が引き止める。
『なに?』
『あの…ありがとう。』
うつむいて楓は言った。俺は微笑む。
『お礼なんていらないよ。じゃあな。』
『あの…ま…待って!!』
『なに?』
再び歩き出そうとした俺をまた楓が止める。今度はなんだっていうんだ。
そして、うつむき加減の彼女は、もじもじしながらいいにくそうにいった。
『…涼介大好き。』
カーッと俺の顔に血液がのぼる。
俺は人に見られないように、素早く唇を重ねた。
『…お礼ちゃんともらったよ。』
突然の事に呆然としている楓をよそに、俺は歩き出す。
不安でいっぱいの俺の心に、一輪の花が咲いた気がした。


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